東北大学は7月25日、心筋梗塞など心血管病の治療や予防に有効な高脂血症の代表的治療薬である「スタチン」が、コレステロールを低下させる作用以外にも心血管病の予防効果を有することが明らかになり、その分子機序として「Small GTP-Binding Protein Dissociation Stimulator(SmgGDS:スマッグジーディーエス)」という分子が中心的な役割を果たしていることを発見したと発表した。

成果は、東北大大学院 医学系研究科 循環器内科学分野の下川宏明 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月2日付けで米学術誌「Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology」に掲載済みだ。

スタチンは世界中で約3000万人が服用しており、その心血管病の予防効果について数多くの研究がなされ効果が実証されている。当初、コレステロールを低下させることが効果と考えられていたが、コレステロールがそれほど低下しなかった患者や、もともとコレステロール値が高くない患者に対しても有効であることから、コレステロール低下作用以外に重要な薬理作用があると考えられるようになってきた。スタチンの「多面的作用」と呼ばれている(画像1)。その機序として、従来、スタチンの主たる作用である「HMG-CoA」還元酵素の阻害により、コレステロール合成の抑制と同時に「Rho」という分子が抑制されることが主なものと考えられてきた。

画像1。スタチンの作用

しかし下川教授らは、臨床的に投与される通常用量のスタチンではRhoは抑制されず、細胞の形態変化や移動に関与し、活性酸素種の発生にも大きく関与する「Rac1」という分子が抑制されることを見出した。すなわち、スタチンによるRac1の抑制が多面的作用の中心であることが示されたのである。

Rac1とRhoは、いずれも「small GTPase(低分子量Gタンパク)」と呼ばれるグループに属する分子だが、下川教授らはそれらSmall GTPaseの活性化を制御するSmgGDSに着目し、スタチンの多面的作用について、世界に先駆けて分子機序を明らかにしたというわけだ。

ヒトの培養血管内皮細胞を用いた実験では、スタチンを投与するとSmgGDSの発現量が増加し、それによりRac1の分解が選択的に促進された。Rac1は、老化や細胞障害を引き起こす活性酸素種の産生に関わっていることが知られているが、スタチンの投与およびSmgGDSの増加によって活性酸素種が減少し、スタチンによるRac1の分解と活性酸素種の減少が重要であることが示されたのである。

また、SmgGDSを減少させた遺伝子改変マウスを用いた動物実験では、薬剤により心血管病を生じるマウスにスタチンを投与すると心血管病が改善する一方、SmgGDSを減少させたマウスではその効果が消失することが確認された。さらに、ヒトに対しスタチンを投与することで血液中のSmgGDSが増加することも明らかにされている。

以上の結果より、スタチンの心血管病予防・治療効果において、SmgGDSを介した活性酸素種の制御が中心的な役割を果たすことが明らかとなった(画像2)。今回の研究成果は、SmgGDSを増加させる薬剤の開発や、SmgGDSの測定による心血管病の予測など、多くの臨床応用が期待されるとしている。

画像2。スタチンによるSmgGDSの増加と活性酸素種(ROS)の低下