北海道大学(北大)とアスビオファーマは3月22日、産業技術総合研究所、結核予防会結核研究所、仏キュリー研究所との共同研究により、ヒト白血球の1種である「マイト(Mucosal-Associated Invariant T:MAIT)細胞」をiPS化し、そこから元の細胞へと分化させる「再分化」でマイト細胞の大量産生に成功すると同時に、産生された細胞がヒト生体内のマイト細胞と同等な機能を示し、マウスに移入したところ細菌増殖を抑制することが確認されたと共同で発表した。

成果は、北大 大学院医学研究科の若尾宏准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間3月22日付けでiPS/ES細胞関連分野における国際学術雑誌「Cell Stem Cell」に掲載された。また、今回の研究成果の一部は3月26日に開催された「日本衛生学会学術総会」でも報告された。

マイト細胞は、結核菌感染などからの生体防御において重要な役割を果たしていると考えられており、また多発性硬化症などの自己免疫疾患への関与も示唆されているヒト白血球の1種だ。よって、その詳細な機能解析を行うことができれば、これらの疾患に対する原因療法に道を拓くものと考えられている。しかしマイト細胞はほかの白血球と異なり、実験動物であるマウスにはほとんど存在しないという大きな問題があった。そのためマイト細胞は、その生理機能のほとんどがこれまでのところ解明されていないという状態だったのである。

そこで若尾准教授らは今回の研究で、遺伝子を傷つけない機能を持つ「センダイウイルス」を用いてマイト細胞に「山中因子」を導入し、その初期(iPS細胞)化を実行。続いて、そのiPS細胞を特殊な細胞上で培養することで、マイト細胞のみを選択的に「分化誘導」(特定の機能を持った細胞群に誘導すること)することを行ったのである。

その結果として得られた細胞について細胞培養やマウスを用いて解析を行ったところ、その多くが、遺伝子が傷ついていない、つまりガン化の恐れがないマイト細胞由来のiPS細胞であることが確認されたというわけだ。また、iPS細胞から分化誘導した白血球の98%以上がマイト細胞であることも判明。これらの細胞はヒト体内に存在する細胞と同等の機能を有していることも確認されており、マウスへの移入を行ったところ、抗菌活性を発揮。さらにこの活性にはマウスには存在しないヒト特異的分子が関わっていることが示されたのである。

若尾准教授らは今回の成果に対し、難治性感染症である多剤耐性結核、非結核性抗酸菌感染、院内感染などに対する新たな「細胞予防」・細胞治療や、今もその多くが原因不明であるヒト自己免疫疾患の病因解明や原因療法開発に道が拓けると期待されるとコメントしている。なお細胞予防とは、難治性感染症や多発性硬化症などの自己免疫疾患に対して、マイト細胞を標的としてその予防法を確立しようとする新しい概念のことである。

今回の成果をまとめた模式図