名古屋大学(名大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学、京都大学の4者は、JAMSTECの所有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」による詳細な計算機シミュレーションと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2006年に打ち上げた太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」による観測データの精密解析を通して、太陽表面に2種類の特殊な磁場構造が現れる時に太陽フレアが発生することを、そのメカニズムと併せて明らかにしたと発表した。

成果は、名大 太陽地球環境研究所 副所長兼JAMSTECシステム地球ラボ ユニットリーダーの草野完也教授、名大大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 博士課程(前期課程)の伴場由美氏、名大 太陽地球環境研究所の山本哲也研究員、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻で日本学術振興会特別研究員の飯田佑輔氏、同・地球惑星科学専攻 博士後期課程の鳥海森氏、京大 宇宙総合学研究ユニットの浅井歩特定助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」11月20日付号に掲載される予定(オンライン版も事前に公開の予定)。

太陽表面で発生する巨大な太陽フレアは、最大で水爆100万個分のエネルギーを1度に放出し、強力なX線や粒子線、巨大な衝撃波などを生成する太陽系最大の爆発現象だ。

規模が巨大であった場合、その影響は計り知れず、地球規模のインフラへの影響や、人工衛星の故障・墜落(大気圏がふくれあがることで低軌道の衛星は空気抵抗が強くなって落下が早まる)、さらには宇宙飛行士、航空機の乗員乗客の健康被害(特に宇宙飛行士は強い放射線による命の危険すらある)を与える可能性がある。

実際、1989年には巨大なフレアが引き起こした磁気嵐によって、カナダ・ケベック州で大規模な停電が発生し、600万人が被害を受けた。また、1859年には太陽フレアに伴うさらに大きな磁気嵐が起きたことが記録に残されており、もし現代において同規模の現象が起きた場合、その被害総額は2兆ドルを超えると試算されている。

これまでのところ、太陽フレアは黒点近傍で発生することなどがわかっており、黒点周辺に蓄積された磁場のエネルギーの一部が、100万度の高温プラズマでできた太陽の大気であるコロナのエネルギーとして突発的に解放される現象であると考えられているが、しかし実のところ、その発生機構は未だに明確に解明されていない。そのため、いつ、どこで、どれ程大きなフレアが発生するかを正確に予測することはこれまで困難だった。

そこで研究グループは今回、太陽フレアが太陽表面における「大規模な磁場の捻じれ」と「小規模な磁場の変化」の相互作用を通して発生するという仮説に基づき(画像1)、太陽表面磁場とフレア発生の関係を、地球シミュレータを用いて、詳細な計算機シミュレーションを実施した。

画像1は、計算機シミュレーションで使われた太陽コロナ磁場のモデル。θ0の捻じれ角(シア角)を持つ大規模磁場中に、回転角.eの小規模磁場変動を与える。底面は太陽表面に対応し、白と灰色の領域は磁場の向きが外向きと内向きの領域に対応する。

画像1。計算機シミュレーションで使われた太陽コロナ磁場のモデル

100通り以上の異なる磁場構造に関して、それぞれフレア発生の有無を調べる数値実験(電磁流体力学シミュレーション)が行われた結果(画像2)、捻じれた磁場中に「反極性(OP)型」または「逆シア(RS)型」と呼ばれる2種類の特殊な構造を持つ小規模な磁場が存在した時にフレアが発生することが見出された(画像3)。さらに、発生するフレアの規模は大規模な磁場の捻じれが強いほど大きくなることも明らかにした。

画像2は、計算機シミュレーションのまとめ。大規模磁場のシア角(.0)と小規模磁場の回転角(.e)からなるパラメータ領域においてフレアが発生するか否かを表している。

ピンクのダイアモンドおよび青のダイアモンドは、それぞれ対応するパラメータ(反極性型および逆シア型磁場)でフレアが発生したことを示したものだ。一方、四角(□)のパラメータではフレアは発生しなかった。等高線(緑から赤)はフレアで解放されたエネルギーを示し、シア角が大きな場合にのみ大規模フレアが発生することがわかる。

画像2。計算機シミュレーションのまとめ

画像3。計算機シミュレーション(反極性型)で再現された太陽フレアにおける磁力線(緑線)の時間変化。赤色の面は強い電流層を示している

研究グループではシミュレーションによるこの予測を検証するため、2006年12月13日および2011年2月13日に発生した大規模フレアを、太陽観測衛星「ひので」が観測したデータに基づいて詳細に解析を行った。

その結果、シミュレーションが予測した2種類の磁場構造がそれぞれ太陽表面に現れた数時間後に、これら2つのフレアがその領域で発生したことが確認されたのである(画像4・5)。また、過去に観測された複数のフレアもシミュレーションの予測に一致する磁場構造を伴っていたことが突き止められた。

画像4は、2006年12月13日に発生したXクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果。グレースケールは太陽表面磁場を、赤線はカルシウム線の発光を示したものだ。黄色の円形で示した部分に反極性(OP)型磁場構造が現れた後に、その領域を中心としてフレアによる発光が広がる様子が示されている。緑線は磁気中性線。

画像5は、2011年2月13日に発生したMクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果。グレースケールは太陽表面磁場を、赤線は太陽表面におけるカルシウム線の発光を示したものだ。黄色の円形で示した部分に逆シア(RS)型磁場構造が現れた後に、その領域を中心としてフレアによる発光が広がる様子が示されている。緑線は磁気中性線。

なお、太陽フレアはX線強度によって5等級に分類され、最大のXから、M、C、B、Aとなる。それぞれ10倍ずつの差がある。

画像4。2006年12月13日に発生したXクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果

画像5。2011年2月13日に発生したMクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果

太陽フレアと同様の現象は太陽のみならず数多くの恒星やさまざまな天体で発生していることがわかってきており、中には太陽で発生した最大級のフレアの100~1000倍も強力な「スーパーフレア」も多数の恒星で発生していることも確認されている

また、太陽フレアのようにプラズマ中の磁気エネルギーが爆発的に解放される現象は、地球や惑星の磁気圏、核融合を目指したプラズマ閉じ込め実験でも現れる。それゆえ、太陽フレアの発生機構の解明は天文学、宇宙空間物理学、プラズマ物理学に共通した重要課題というわけだ。

今回の研究は、フレアの発生条件となる磁場構造を世界で初めて特定したものであり、フレア発生機構の解明に重要な貢献をする成果である。さらに、今回の研究の結果は太陽磁場観測を通してフレア発生を数時間前に予測することが可能であることを意味することから、正確な宇宙天気予報の実現に大きな貢献をするものとして注目されているところだ。

研究グループは今回の研究の成果を応用し、精密な太陽磁場観測データよりフレア発生を事前に予測するスキームの研究開発に着手しているとしている。