京都大学は5月17日、系外惑星探査衛星「ケプラー」の観測データを解析することにより、太陽型恒星で最大級の太陽フレアの100倍~1000倍にもなる超巨大な「スーパーフレア」(画像1・2)を365例発見したと発表した。

成果は、京大理学研究科附属天文台の柴田一成教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英科学誌「Nature」に掲載された。

画像1(左)は、太陽型恒星のスーパーフレアの想像図。画像2が京都大学飛騨天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)で撮影された2011年9月7日の太陽フレア(Hα+1.2Åの単色像)で、どれだけ巨大かがわかる

ケプラーは、NASAが2009年に打ち上げた系外惑星探査を主目的とした宇宙望遠鏡だ。今回、その観測データを解析することにより、これまで9例しか見つかっていなかった太陽型恒星でのスーパーフレアが365例発見され、統計的な研究が可能となり、複数の発見があった次第だ(画像3・4)。

スーパーフレアの統計データの1つ、スーパーフレアを起こした太陽型恒星の明るさの時間変化のグラフ。画像3(左)は、恒星「KIC9459362」の、画像4は恒星「KIC6034120」の明るさの時間変化。それぞれの(b)と(d)の小さなグラフは、スーパーフレアによる明るさの変化を拡大したもの

1つ目は、スーパーフレアの発生頻度はエネルギーが10倍になるとおよそ10分の1になるということ。これは太陽フレアの発生頻度の統計とよく似ている。太陽類似星(太陽と似た表面温度と自転周期を持つ星)では、スーパーフレアの発生頻度は平均すると、最大級の太陽フレアの1000倍のスーパーフレアでは5000年に1回、100倍のスーパーフレアでは800年に1回であることが導き出された(画像5)。

画像5。スーパーフレアの発生頻度分布。赤はすべてのG型主系列星、緑は自転周期が10日以上、表面温度が5600~6000Kの星のみの場合

2つ目は、スーパーフレアの発生頻度は星の自転周期が長いほど小さいということ。太陽は赤道付近で27日強、極に近い高緯度で32日弱だが、ここでは25日として扱っており、25日程度の自転周期を持つ恒星の発生頻度は、80年から900年に1回という幅がある模様。発生頻度が多いと平均寿命の長い日本人なら一生の間に1回遭遇してしまう可能性があるが、最小だと東北地方太平洋沖地震クラスの大型地震並みとなるようだ。もっとも、これまで我々の太陽では80年はおろか、もっと長いスパンで見ても明らかに発生した痕跡はないので、そう慌てる心配はないだろう。

画像6。星の自転周期とスーパーフレアの発生頻度。自転周期が長い星ほど、スーパーフレアの発生頻度が低い

しかし、3つ目はスーパーフレアのエネルギーの上限はその星の自転周期によらない、というものだ。2つ目では大いに関係していた自転周期だが、こちらでは関係ないという。ちなみに、太陽のように自転周期の長い星でも大きな太陽フレアの1000倍程度のエネルギーのスーパーフレアが起こる例が確認された。

画像7。星の自転周期とスーパーフレアのエネルギー。自転周期の長い星であっても最大級の太陽フレアの1000倍以上のエネルギーのフレアが起こる

4つ目は、スーパーフレアを起こす星は星自身の明るさが0.1%~10%準周期的に変動しているものが多い。これはスーパーフレアを起こす星の表面に、太陽で見られる黒点よりも巨大な黒点が存在することを示唆している。

5つ目は、スーパーフレアを起こす星の周りには、従来スーパーフレアを起こすのに必須条件だと考えられていた「ホットジュピター」(木星のような巨大惑星だが、太陽系でいえば水星よりももっと太陽に近いぐらい、恒星の非常に近くを公転する惑星)は稀だということである。

なお、最大級の太陽フレアが起こると、地球ではさまざまな被害が起きることはご存じの人も多いはずだ。例えば、近年なら1989年の大フレア(1年~数年に1回程度)が起きた時、地球では大磁気嵐が起き、そのため、カナダのケベック州で600万人が9時間停電に遭遇するという被害に遭ったほどである。

また、太陽フレアは人工衛星の故障や通信障害を引き起こしてしまう。もし、スーパーフレアが太陽で起きれば地球は甚大な被害を受けることは間違いないだろう。

これまで我々の太陽ではスーパーフレアは起きないと考えられてきたが、上記の結果から、「起きない」と考えられていた理由の1つである「研究グループの太陽系にはホットジュピターはない」という理由は成りたたないことが判明した。よって、自転周期が長いことから頻度は少ないにしても、発生する確率はあるということだ。

今後、研究グループはケプラーのデータの詳細な解析を続けると共に、すばる望遠鏡や現在建設を進めている京都大学の「岡山3.8m新技術光学赤外線望遠鏡」を用いて、スーパーフレアがどのような星で起こるのかをさらに調査していく予定とした。