海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京工業大学、東京大学地震研究所は5月7日、1944年東南海地震震源域において「広帯域地震計」を用いた海底観測を行い、当該海域で2009年3月下旬に群発した「超低周波地震」について、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を高精度で決定することに成功したと発表した。

成果は、JAMSTECの杉岡裕子研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間5月6日付けで英科学雑誌「Nature Geoscience」に掲載された。

海洋プレートが大陸プレートに沈みこんでいる海溝付近では、プレート間に大きな摩擦が生じないため、大陸プレートの下にズルズルと滑り込んでおり、地震としての破壊は発生しないと考えられていた。

その一方で、そこでは稀に、地震の規模に対して異常に大きな津波を引き起こす「津波地震」や、普通の地震に比べ非常にゆっくりと滑る「超低周波地震」が発生することが陸上観測から確かめられている。

しかし、震源近傍での動きを直接とらえる観測がなかったため、これまで海溝付近で生じるこれらの地震についての詳細な解析はなされていなかった。そこでJAMSTECは、東海から南海にかけての地域を震源とする地震に関する研究の一環として、当該地域において広帯域地震計を用いた多角的な調査・観測を行ったのである。

今回の観測では、2008年8月に南海トラフ軸近傍の海域(画像1)の3地点に広帯域海底地震計(画像2)を設置し、2009年10月まで南海トラフ軸近傍での地震観測を実施。その結果、2009年3月22日から10日間程度の「超低周波地震」を直近でとらえることに成功した。これにより、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を高精度に決定することができたのである。

画像1。和歌山県田辺沖の水深2500mから4000mに設置された、海底地震計の位置(橙丸印)

画像2。広帯域海底地震計の投入風景。広帯域地震計は、周期360秒まで感度があり、断層の中で破壊が進行する速度が異常に遅いような地震を観測するのに適している

南海トラフ軸近傍での超低周波地震活動は、2004年9月に陸上広帯域地震観測網により観測されて以来、4年半ぶりに観測された。前回の観測は陸上広帯域地震観測網によるものということもあり、震源メカニズムなどを高精度に決定するにはデータとして十分ではなかった。

海溝域における初めての観測データに基づいて震源位置と震源メカニズムを解析したところ、今回の超低周波地震が、従来プレート間の固着が小さく地震が発生しない地域(非地震域)であると考えられていた海溝付近のプレート境界面で起きていることが判明した(画像3・4)。

画像3。2009年3月の超低周波地震の震源と震源メカニズム。画像中の白と黒の円形のマーク(横ずれ断層型を示す)は超低周波地震震源メカニズムを、橙丸印は広帯域地震観測点を表す。地震の規模はマグニチュード4程度であり、ほとんどが海溝付近のプレート境界面で起きていた

画像4。震源メカニズムの見方について(気象庁地震予知情報課作成資料より)

しかも、断層中の破壊が進行する速度が異常に遅く、同程度のマグニチュード4クラスの地震が1秒程度で終わるのに対し、今回の地震では30~100秒かかっていることも明らかになったのである。

今回のような超低周波地震と同様の周期の長い地震の破壊が、海溝まで到達した場合には、それに伴って海底面が海溝軸に向かって変化することによって、津波が発生する可能性が示唆された。これにより、1605年に発生した東南海域を震源とする慶長地震のような、これまで実態が不明であった「津波地震」の発生原理を説明できる可能性がある。

今回の成果は、海溝付近における地震の発生メカニズムを明確化したものであると同時に、大きな被害をもたらす恐れのある「津波地震」の発生原理の解明に寄与し得るものだ。

そのことから、当該海域で長期的に調査・観測を継続することによって、予想されている震源域、特に大災害につながる海溝軸付近における地震活動の時間変化を評価する際に重要な意義を持つものと考えられる。

今後、紀伊半島沖に設置している地震・津波観測監視システム「DONET」やIODP掘削孔内観測点から得られる連続データの解析により、東海・東南海・南海地震震源域から海溝に至る地震活動の評価ならびに地震に伴う津波被害に対する防災・減災に向けた基礎情報の整備・提供に貢献していくとしている。