海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東京大学、高知大学は10月3日、南海トラフ地震発生帯掘削計画に従事している地球深部探査船「ちきゅう」が、1944年の東南海地震の津波断層を特定する物的証拠を発見したことを共同で発表した。今回の発見は、日米主導で2003年より行われている多国間国際協力プロジェクト「統合国際深海掘削計画」の「第316次航海・南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ1」(画像1)によるもの。4ステージに分けて、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画で、ステージ1は2008年に終了した。なお、今回の成果は、米地質学会誌「GEOLOGY」10月号に掲載予定。

画像1。掘削場所周辺の地下構造。(A)は、西南日本沖の南海トラフと1944年の東南海地震の発生領域(橙色)を示したもの。南海トラフでは、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生している。南海トラフ地震発生帯掘削計画は、東南海地震発生領域のラインBにおいて進行中だ。(B)は、プレートの断面図。詳細な構造探査により、海底にプレート境界断層とそこから派生する巨大分岐断層が発達していることが明らかにされている。(C)は、巨大分岐断層の浅部先端の詳細な断面図。巨大分岐断層とその周囲が掘削され(縦の黒い線)、コア試料が採取された

過去の巨大地震の海底地震断層とその活動履歴の推定は、古文書や陸上に残された痕跡などから類推するのが一般的だ。しかし、地震対策などを効果的に進めていくためには、海底地震断層を特定し、確度の高い活動履歴に基づいて大作を策定していくことが重要となる。そのためには、過去の巨大地震についての位置と時間を正確に記録している痕跡の確認が課題だが、海底の調査は時間と費用がよりかかるのは説明するまでもない。

今回の研究では、強い地震動によって海底表層が破砕される「ブレッチャ化」に着目して(画像2)、その検出が進められた。泥層の破砕であるマッドブレッチャは、目視確認が困難なため、医学用でもお馴染みのX線を走査して試料の三次元内部構造を可視化する非破壊分析装置のX線CT(X線コンピュータトモグラフィ)による識別・確認が試みられた次第だ。

画像2。地震によってマッドブレッチャが形成されるメカニズムの概念図。地震による強い震動により、断層上盤(上にのしかかる側)の未固結の海底堆積物が破砕され、葉返上になることでブレッチャ構造が形成される。南海トラフのような圧縮場で卓越する逆断層タイプでは、上盤側で大きな強震動が起きる場合が多く、マッドブレッチャが上盤に形成される。下盤(下に潜り込む側)にはマッドブレッチャはほとんど形成されない

ステージ1にて採取した巨大分岐断層を含むコアについてX線CTで三次元組織分析を行ったところ、巨大分岐断層の上盤側(画像1)表層部である海底面から80cmまでの間に、明瞭に識別される5層のマッドブレッチャが存在することが確認された。なお、このコアについては、より深い部分の断層本体が過去に地震性すべりを起こしていた痕跡が見つかっていることは、2011年4月に発表済みだ。

一方、断層の下盤側コアには、マッドブレッチャはほとんど含まれていないことが判明。南海トラフに卓越する逆断層型の地震では、断層の上盤側が強く揺さぶられ、被害が上盤側に偏ることが確認されており(2008年の宮城・岩手内陸地震、1999年の台湾中部地震など)、マッドブレッチャが巨大分岐断層の上盤側にだけ分布しているという事実は、巨大分岐断層が地震動の原因であったことを意味する。

さらに今回発見された5層のマッドブレッチャについて、半減期22.3年の「鉛210」と半減期5730年の「炭素14」による放射年代測定も実施。結果、最も直近のマッドブレッチャの年代は、1950年±20年であり、1944年の東南海地震と一致することが判明した(画像3)。

画像3。画像1の巨大分岐断層上盤のC0004で採掘されたコア試料の分析結果。一番左の左の目視(可視光)では無構造のように見える。しかし、中央のX線CTでは、堆積物の微細な際を可視化することが可能だ。X線CTでの解析の結果、海底表層の軟弱泥が破砕したマッドブレッチャを含む層が少なくとも5層(一番右の解釈図のイベント1~5)が確認できる。放射年代測定の結果、イベント1が起きたのは1950年±20年で、1944年の東南海地震と一致する。それ以外のマッドブレッチャ堆積物の年代は、これまでの記録の残る地震とは必ずしも一致しない

また、それより下位の古いマッドブレッチャの年代は、約3500~1万年前であり、歴史記録に記された地震と一致するものは確認されていない。これは、この巨大分岐断層では、約100~150年感覚といわれる南海地震の周期よりも、より長周期の大きな地震活動のみが記録されている可能性を示唆している。

今回の成果は、過去の巨大地震について、深海底のどの断層がいつ動いたのかを物証から検証することを実現したものだ。これにより、巨大地震発生の際に巨大分岐断層が動くことも想定して地震規模の推定を行えるようになるため、より正確な被害規模の推定が可能になることが期待されている。