情報通信研究機構(NICT)と東北大学は3月13日、地球周回の低軌道(高度数100~1000km)に投入する超小型衛星から地上への光通信技術の実証を目指して共同研究を開始したと発表した。

2013年度後半に東北大が打ち上げを予定している超小型衛星(10~100kg程度のサイズで、大型衛星の打ち上げ時に空いたスペースを利用して相乗りで打ち上げられる)に搭載する光送信機からレーザ光を地上に向けて送信し、光学望遠鏡に取り付けた光受信機で受信に成功すれば、世界初の「超小型衛星・地上間の光通信」となるという。

光通信とは、電波の代わりにレーザ光を搬送波として用いる通信方式で、光ファイバを利用したインターネットの通信網が普及してきていることから、地上ではもはや一般的といえる通信技術である。ただし、宇宙ではまだ一般的ではなく、実験が行われており、中でも日本の技術は世界をリードしているといえよう。

光通信は一般的に電波よりも高速な通信速度を達成できるという特徴を持つ。ただし、電波に比べるとより目標への正確な送信が必要となり、衛星は秒速数kmという高速で移動している上に、地上局との距離も衛星で数100kmから数万km、太陽系空間を飛行する探査機ともなれば膨大な距離になるため、非常に難易度が高くなる。

それでも、人工衛星や探査機が観測した大量のデータを短時間で効率よく地上局に送る性能が求められるようになってきていることから、従来の電波に代わる高速な通信手段として光通信が宇宙でも利用できるよう、今回の共同研究がスタートしたというわけだ。

ちなみに、衛星と地上局との光通信では、光送信機には半導体レーザ光源とコリメーター光学系が含まれ、光受信機には波長にあった受光素子を光学望遠鏡に取り付ける仕組みである。

なお、これまでNICTは低軌道を周回する超小型衛星と地上間の高速な光通信のための基礎実験を目標として、光通信に関する技術開発を行ってきた。衛星と光地上局との光通信実験に関しては、2つの衛星でそれぞれ成功させた実績を持つ。

1つは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、1994年に打ち上げた静止衛星の技術試験衛星VI型「きく6号(ETS-VI)」(1996年運用終了)で、同衛星にはNICTの前身の通信総合研究所が開発した光通信基礎実験装置が搭載された。

そしてもう1つは、JAXAが開発して2005年に高度610kmの軌道に打ち上げた光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」だ(2009年9月に運用終了)。「きらり」とNICT地上局との光通信は2006年3月に実施され、成功している。なお、2009年11月にもきらりとNICT地上局との間で光通信に関するさらなる実験が行われており、それに関する記事はこちらだ。

そのほか、この「きらり」は、2005年12月には欧州宇宙機関の先端型データ中継技術衛星「アルテミス(ARTEMIS)」との間で、約4万kmという距離を超えて双方向光通信を世界で初めて成功させている。

一方、東北大学は、かねてから重量50kg級の超小型衛星の開発に取り組み、2009年1月には第1号衛星であるスプライト(落雷に伴う高層大気発光現象のこと)観測衛星(SPRITE-SAT)「雷神」を打ち上げ、2011年5月には第2号衛星である「雷神2」のフライトモデルを完成させた(記事はこちら)。これらの経験を活かして、現在も地球観測を目的とした超小型衛星の技術開発を展開中である。

今回の共同研究では、東北大学が開発中の超小型衛星「RISESAT(Rapid International Scientific Experiment Satellite:ライズサット)」に、NICTが開発した光送信機を搭載することによって、打ち上げまでの期間を短くし、なおかつ低コストで衛星と地上間の光通信技術の実証試験を行うことを目指す。

RISESATは、東北大学が内閣府の最先端研究開発支援プログラムの資金で開発する衛星で、質量50kg程度、縦横高さがそれぞれ約50cmの立方体をしており、設計寿命は約2年間となっている。2013年度後半に高度500~900kmの低軌道へ投入される計画だ。

地球を周回する衛星と通信を行うには、光学望遠鏡及び光受信機などの地上局の設備も必要となる。NICTの本部(東京都小金井市)にはレーザ通信装置(画像1)や口径1.5mの光通信用望遠鏡(画像2)が、鹿島宇宙技術センター(茨城県鹿嶋市)には口径35cmの光学望遠鏡(画像3)が備えられており、過去の実験でも活躍した。今回の共同研究では、これらの望遠鏡に光受信機を搭載し、RISESATから届く光信号を受信する予定だ。

画像1。NICT開発の地上衛星間レーザ通信装置

画像2。NICT本部にある口径1.5mの光学望遠鏡

画像3。NICT鹿島宇宙技術センターにある口径35cmの光学望遠鏡