産業技術総合研究所(産総研)フレキシブルエレクトロニクス研究センター 印刷エレクトロニクスデバイスチームの吉田学 主任研究員は、太陽ホールディングスと共同で、フレキシブル基材上にアルミニウムや銅のUHF-RFIDアンテナを印刷形成する技術を開発したことを発表した。

今回開発されたアルミニウムペーストを用いてスクリーン印刷したUHF-RFIDアンテナパターン(上)と加圧焼成処理によって導電化したアンテナパターン(下)。加圧焼成処理後のパターンでは金属光沢が発現する

RFIDタグはさまざまなトレーサビリティに用いられるようになってきたが、再利用可能なRFID以外の使い捨てのものは製造コストが商品の販売価格に含まれることになるため、低価格商品で使用するためにはさらなる製造コストの低減が求められている。

RFIDの製造コストは大きく、プロセスコストと材料の2つに分けられる。従来のRFIDのアンテナ作製プロセスでは、真空蒸着やエッチングが用いられており、プロセスコストを下げる障害となっており、現在、コスト低減を目指し、現行のアルミニウムや銅の真空蒸着やエッチングプロセスから、より省資源・省エネルギーな印刷プロセスへの転換が図られている。しかし、印刷プロセスで使われている現行の導電性ペーストは高価な銀を主体とするため、材料コストを増加させてしまう問題があった。

産総研では過去、フレキシブルフィルム(PET、ポリイミド、紙など)の上に安価なアルミニウムや銅の導電性パターンを印刷によって形成させるための加圧焼成技術を研究開発してきており、今回、この加圧焼成技術を、太陽ホールディングスの開発したアルミニウムペーストや銅ペーストに適用することで、製造コストや材料コストを低減し、フレキシブルフィルム上にアルミニウムや銅の高品質なUHF-RFIDアンテナパターンを形成することに挑んだ。実際に試作されたUHF帯のRFIDタグは送受信器と数m離れていても送受信可能であり、高速・大量に商品情報を授受・処理することが可能であったという。

具体的なUHF-RFIDアンテナパターンの作製手順はというと、最初にUHF-RFIDアンテナパターンのスクリーン版を用いて金属ペーストを印刷し、それらの金属ペーストパターンを乾燥炉などで乾燥させる。その後、金属ペーストパターンの表面を、加圧ヘッドを用いて圧力を加えながら焼成(加圧焼成)して導電化。加圧ヘッドは金属ペーストパターンに対し鉛直方向と水平方向に圧力をかけるように制御される。加圧焼成プロセスの際には、金属ペースト中の金属粒子が塑性変形して粒子表面の金属酸化膜が破壊され、このときに金属粒子間に金属接合が形成される。一般的には、アルミニウムや銅の粒子は表面が酸化されており粒子間で金属接合を形成することが困難なのだが、今回の研究開発では加圧焼成技術を採用することで、こうした問題の解決が図られた。

印刷によるUHF-RFIDアンテナパターン作製プロセス

従来品、新開発品、いずれのアルミニウムペーストにも加圧焼成処理を施したところ、アルミニウム粒子が塑性変形を起こし、粒子形状が観察されなくなり、金属接合が形成されていることが観察された。

従来のアルミニウムペーストと開発したペーストの加圧焼成処理前後の表面顕微鏡像

しかし、従来のペーストと今回開発したペーストの大きな違いの1つは、アルミニウムや銅粒子の粒度分布などを設計・制御し、さらに特殊な分散剤を使用して印刷塗膜中のアルミニウム粒子や銅粒子の充填率を上げることを可能にしたことであり、これにより、印刷パターン表面に均一に圧力をかけることができるようになり、導電化層が連続した部分の割合が高くなる結果を得られた。また、その一方で、従来品では圧力が不均一にかかるため、導電化層の不連続部分の割合が高くなる。

従来のペーストと開発したペーストの処理後の導電化状態の違い

さらに、今回開発した金属ペーストの加圧焼成処理後の抵抗率を確認したところ、従来品と比較して、アルミニウムペーストで約7分の1、銅ペーストで約5分の1に改善されていることが確認された。

従来のペーストと開発したペーストにより達成される電気抵抗率

加えて、金属粒子と基材との密着性を向上させるため、ペーストの有機成分に熱硬化樹脂を採用。これにより従来に比べて強固に基材に密着することが可能となり、標準剥離テスト(テープピーリングテスト)にて剥離が見られない高い密着性を得ることに成功した。一般的に低温焼成型の導電性ペーストではPETの使用限界温度である150℃以下に焼成・硬化温度を設定する必要があり、今回の技術では加圧焼成技術を採用することで、製造プロセスの低温化をはかり、熱硬化樹脂の硬化処理温度を150℃以下を実現、熱可塑性フィルム上にアンテナを形成することを可能とした。

UHF-RFIDの送受信特性計測システム(上)とアルミニウムアンテナと銅アンテナの送受信特性(下)

従来ペーストと新たに開発したペーストの処理後の導電化状態の違いを計測し、加圧焼成処理したアルミニウムアンテナと銅アンテナの送受信特性を評価した結果、測定装置との回転角が0°の条件で、アルミニウムアンテナで約3.5m、銅アンテナで5m程度の通信可能距離が得られ、現行の銀ペーストのUHF-RFIDと同等以上の性能が得られることが確認された(この場合の測定における通信可能距離はRFIDの認識率が100%となる距離)。

なお、研究グループでは今後 生産ライン向けの加圧焼成処理装置を開発し、アルミニウムや銅の印刷UHF-RFIDタグの実用化に取り組んでいくとするほか、UHF-RFIDタグ以外の印刷技術を用いたダイオードや発光素子、太陽電池の製造などへの適用を検討していく予定であるとしている。