北海道大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)による研究グループは、レーザー照射により原子の空孔(欠損)ができ、それが集まってできる空孔集合体の成長現象を発見、その様子をレーザー超高圧電子顕微鏡によってリアルタイムで観察することに成功したことを発表した。同成果は、Nature姉妹誌の「Scientific Reports」に掲載された。

材料中の空孔の存在とその拡散は古くから知られており、材料の安定性を支配する重要な因子であるため、急冷や拡散現象、あるいは電子線、イオンなどの高エネルギーのビーム照射により調べられてきた。一方、レーザー溶接やレーザー加工などで一般的なように、強いレーザー光によって材料に損傷を与えることは知られていたが、レーザー照射による原子空孔という原子レベルでの欠損に関する情報はよくわからないままであった。

そこでその欠陥過程を調べていた同研究チームは、ステンレス材料に10-100nmサイズの転位ループ(空孔集合体)がパルスレーザー照射により形成していることを今回、確認。その形成過程を北海道大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター・超高圧電子顕微鏡研究室(渡辺精一教授/室長)が開発した短パルスレーザー光を入射できる超高圧電子顕微鏡(レーザー超高圧電子顕微鏡)を用いてレーザー照射しながら観察確認することに成功し、導入された空孔が次第に集まって自己集合化がレーザー照射下で起こっている現象であることをつきとめた。また、温度を変えながら成長の速さを測定したところ、温度が高くなるにつれ成長が早くなり、それらの情報から空孔の拡散に関するエネルギーを見積ることにも成功した。

北海道大学が開発したレーザー超高圧電子顕微鏡

具体的には、ネオジム・ヤグ(Nd:YAG)ナノ秒レーザーを130万ボルト超高圧電子顕微鏡に敷設し、試料(316L ステンレス鋼)の上から直接照射する(ビーム径6mm)と、レーザーの当たっているところに空孔を含む転位ループができることが分かった。

ステンレス鋼中の空孔集合体のレーザー照射による成長。試料に1秒間に2発の頻度でレーザー光を入射してできた空孔集合体の様子で、時間が進むにつれ次第に大きくなっている様子がわかる

開発したレーザー超高圧電子顕微鏡を用いることで、レーザー照射をしながらナノレベルの小さな空孔集合体の成長過程を観察することに成功したほか、レーザー照射により空孔が形成されていることを証明し、空孔の拡散エネルギーの新たな測定法の考案が行われた。

なお、研究チームでは、今後、不純物を含んだ色々な鉄鋼材料などの拡散に関する正確な情報が解明されることで、相の安定性、融点、腐食特性などに優れた高信頼性材料の開発設計につながることが期待できるとしている。