システム・インスツルメンツと北海道大学(北大)大学院先端生命科学研究院の開発チームは、生体試料から糖鎖のみを自動で抽出できる装置の実用化に成功したことを明らかにした。

今回開発された大規模解析用の糖鎖自動抽出装置。ヒト血清を96穴プレートにセットすれば、酵素による糖鎖切り出しからグライコブロッティング、洗浄と溶媒置換、さらにビーズ上での化学的変換反応の後、最終的に標識された糖鎖試料はMALDI-TOFMS用のプレート上に点着される

タンパク質や脂質に共有結合している糖鎖は、細胞の分化、臓器形成、老化、免疫さらに疾患(病態)を含む多くの生命現象において重要な役割を担っている。糖鎖の構造は、疾患(病態)を含む様々な環境要因によって敏感に影響されるが、糖鎖はタンパク質と違い、その構造自体が短時間のうちに変化するという特長を有する。例えば、あるタンパク質に糖鎖が結合している(糖タンパク質)場合、タンパク質そのものに変化はなくても、それを修飾している糖鎖の構造は様々であり、これは、同じ糖タンパク質であっても、成長の過程や疾病の有無などに応じて、修飾する糖鎖の構造に違いがあることを示す。

このように変化の顕著な糖鎖を網羅的に分析し、「いつ、どこで、どのように」糖鎖構造が変化したのかを分析すれば、感度の良いバイオマーカーを発見できると期待されており、すでに、血清中の主要な糖タンパク質由来のN-グリカンと呼ばれる分子のプロファイルから、多くの疾患の早期発見や病態観察、予後の予測などが可能となることがわかるようになってきており、こうした背景から臨床現場でも導入可能な「実用的な自動糖鎖解析システム」が求められるようになってきていた。

糖鎖を分析するためには、糖鎖のみをより分け、かつ必要な量を確保することが不可欠だが、糖鎖の場合は分子を直接増幅させる方法はないため、糖鎖の構造解析や定量化を行うには、血液、尿、組織や細胞などの生体試料から、分析に必要な量以上の糖鎖を直接精製しなければならなかった。開発チームは、アミノオキシ基やヒドラジド基を表面にもつ担体(ビーズ)はアルデヒド基を速やかに吸着する性質があること、また多くの生体分子のうち、分子内にアルデヒド基を持つのはほぼ遊離の糖鎖だけであることをこれまでに発見しており、この原理を利用し、生体試料中のアルデヒド化合物群を選択的に捕捉することで糖鎖のみが特異的に回収できる「グライコブロッティング(Glycoblorring)法」を考案していた。

血清のような生体由来の試料には、糖タンパク質の他、核酸や脂質などの様々な分子が含まれており、グライコブロッティング法では、まず、分析対象である糖鎖からタンパク質を切り離す。切り出した糖鎖にはアルデヒド基が含まれており、これと特異的に反応して共有結合するアミノオキシ基やヒドラジド基を持ったビーズを試料に混合すると、切り離された糖鎖のみが化学的にビーズに結合。さらに同ビーズを洗浄すると、結合した糖鎖以外の分子を完全に取り除くことができ、こうして捕まえた糖鎖は、選択的な条件でビーズから切り離すことができるのため、質量分析によって糖鎖のみを分析することが可能となる。

また、糖鎖を切り出す効率の最適化、ブロッティング担体の改良、糖鎖捕獲用ビーズ上でのメチル化、MALDI-TOFMS測定の感度を向上させるため、オキシム交換反応などでタグを導入する方法もそれぞれ併せて開発した。今回開発された糖鎖自動抽出装置は、これらの一連の反応を全自動で行うことが可能な装置となっている。

グライコブロッティング法の原理と基本的なプロトコル。ビーズに捕捉された糖鎖はシアル酸のメチル化、次いで構造解析のための標識化の後に質量分析による構造解析に供せられる

同装置により、従来の解析方法では1検体を測定するのに3~4日掛かっていたのが、96検体を半日で測定可能となった。また、検出できる糖鎖数も従来法では25種類であったのに対し、51種類の検出が可能となった。

従来法とGlycoblotting法の比較

実際に、糖鎖自動抽出装置を使って健常者20人と肝細胞がん患者83人の血清を分析し、網羅的に糖鎖の分析を行ったところ、各人の血清から、3つの糖鎖について得られたイオン強度の比を取り、データ解析の結果、健常群と疾患群を100%区別できることが確認された。

臨床検体の大規模グライコミクスの例(多変量解析による患者と健常者の差別化の例)

また、大規模解析用の糖鎖自動抽出装置の一部の機能に特化した小型の汎用機も開発。これは試料数の少ない研究者向けの装置で、最大96個までの試料を同時に化学修飾することが可能だという。

研究者向け小型汎用機

同装置は、糖鎖が関与していると考えられていたにもかかわらず、研究が進んでいなかった分野の発展に寄与することが期待されるという。具体的には、再生医療分野における細胞の品質管理、あるいは抗体医薬などのバイオ医薬品の品質管理などへの応用を目指すと開発チームでは説明しているほか、今回開発した糖鎖自動抽出装置と質量分析装置を一体化し、抽出・解析工程を全自動化した装置(全自動型糖鎖解析装置)の開発によって、測定対象の血清を装置にセットするだけで、翌日には糖鎖解析の結果を出すことが可能となることから、今後は臨床検査分野への展開を図り、糖鎖プロファイル情報が従来とはまったく性質の異なる臨床検査値として健康診断や治療の予後診断などに活用され、個の医療(テーラーメイド医療)の普及・浸透に貢献することを目指すとしている。

大規模解析用糖鎖自動抽出装置と 汎用機との比較

なお、同装置および小型汎用機は、システム・インスツルメンツが2011年11月から受注販売を開始する予定。