2016年7月、半導体製造装置・材料の国際展示会「SEMICON West 2016」が米国カリフォルニ州サンフランシスコで開催されたが、変革期の半導体産業を象徴するかのようにメインテーマは「Definitely Not Business As Usual(これまでのビジネスとはまったく違う)」であった(図1)。

つまり、「過去の延長線上で、今までと同じやり方でやっていては生き残れない。半導体業界は現在、前例のない大型M&Aで業界再編が進んでいる。IoTをキーワードとしてマーケットも大きく変化している。これまでのビジネスとはまったく違う新たなビジネスが次々誕生している。装置材料メーカーは顧客である半導体メーカーだけではなくその先の顧客(ICT、自動車、家電などの企業)も含めたサプライチェーン全体を的確に把握してビジネスを変革しよう」ということだ。

SEMI Japan 代表の中村修氏によれば、今回の展示会や併設の講演会で関心を集めた話題は、「中国(の半導体産業への巨額な投資)」、「Brexit(英国のEU離脱とその影響)」、「200mmファブ(と200mmウェハの需要復活)」だったという。中国関連については筆者もたびたびお伝えしてきたとおりである。また、Brexitに関しては、EU離脱の手順さえもはっきりしない段階では、半導体産業にどんな影響が及ぶかわからない。そして200mmファブについては、ファブ閉鎖や300mmへの移行が相次ぎ、これから長期低落へ向かうと思われていた需要が、IoT時代を迎えて復活するという話題だ。

200mmファブは2006年に世界中で202拠点が存在していたが、この年をピークにファブのシャットダウンが相次ぎ、2015年には180まで減り、生産能力も7%減った。しかし、2018年には10ファブ増えて、生産能力は6%増加し、2006年のレベル近くまで回復するとSEMIは予測している(図2)。この辺の事情を、SEMI市場調査・統計グループがSEMICON Westの「≦200mm半導体製造フォーラム」で説明した。「目を覚ました200mmファブ:過去、現在、そして復活を見渡す」と題する講演で発表された最新データやほかの講演者の発表資料をもとに検証してみよう。本当にこれまでとはまったく違うビジネス状況が生じているのだろうか。

図1 SEMICON WEST 2016のメインテーマ「これまでのビジネスとはまったく違う」 (出所:SEMI)

図2 200mmファブの数と生産能力(月産200mmウェハ枚数)の変遷。2018年は予測 (出所:SEMI)

実は増減を繰り返している200mmファブ

世界中の150mm、200mm、300mmそれぞれのファブの数の変遷を図3に示す。これは、毎年、年末の時点で世界中で稼働しているFEOL(Front End of Line:トランジスタ形成工程)ファブの数をSEMIが数えたもので、LEDやEPI(エピタキシャル成長)、BEOL(Back End of Line:多層配線工程)、バックエンド(組立・実装)、R&D(生産に寄与しない小規模な研究開発)ファブは除外している。

150mmファブはまず1980年に米Intelで始まり、2008年前後にピークを迎えたのち、減少傾向にある。300mmファブは、300mm製造装置評価機関として設立された日米それぞれの業界コンソーシアムである米国I300I(テキサス州オースチンのSematech施設内)と日本のSeleteが1988年に実験ラインを開設して以降、導入が始まり、2000年に独Siemensと米Motorolaの合弁企業であったSemiconductor300(SC300)が300mmの量産ファブを構築した。それ以降、300mmファブは、21世紀初めから順調に増加し続けており、今後も増加し続ける見込みである

これに対して、200mmファブは、1990年に米IBMのEast Fishkill工場にて、DRAM開発パートナーであったSiemensの64Mbit DRAM試作向けに始まり、その後、ファブの数は1995年に70を超え、その後も順調に増え続けた。

図3 150mm、200mm、300mmそれぞれのファブの数の変遷。2015年までは実績、2016年以降は予測 (出所:SEMI)

200mmファブ数の増減の様子をもっとはっきりとわかるように、2000年以降の200mmファブ数の変遷を図4に赤色の折れ線グラフで拡大表示した。200mmウェハの月間生産能力を青色の棒線グラフで示している。200mmファブは2002年にファブ数200を超えたところでいったんピークを打った後、194まで減少したが、2006年に202まで急増し、ふたたびピークを打った。その後、2015年までほぼ10年に渡り減少し続けた。しかし、200mmファブはファブ数、生産能力ともに2016年以降2019年まで数年にわたり増加するとSEMIは見ている。

2015年は、SEMICON WestでもSEMICON Japanでも200mm(以下も含む)ファブ復活が話題になったが、統計をみる限り、200mmファブも200mmウェハ生産能力もまったく増えていない。話題先行の感が否めない。

200mmファブの閉鎖についてみてみると、2008年から2014年までに33拠点が閉鎖し、16の200mmファブが300mmに転換された。閉鎖された33の200mmファブのうち、日米がそれぞれ14を占めている。閉鎖された200mmファブの多くは解体されたが、富士通は日本国内の複数の200mmファブを野菜栽培工場に転用している。米国では、データセンター、倉庫、貸事務所などに転用されるケースが多い。

2016-2019年に200mmファブが日本と欧州でそれぞれ1つずつ閉鎖される予定であるが、その一方で、14の200mmファブが誕生(小口径からの転用および新設)するとSEMIは予測している。この数字には、2016年7月時点での確率(実現可能性)0%ではないすべての計画が含まれるので、いわばSEMIの希望的観測である。国別内訳は、中国6、米国・欧州・東南アジア各2、日本・台湾各1である。200mmウェハの3大用途は、ファウンドリおよびMEMSセンサやアナログデバイスの製造で、おもにIoT関連と言われている。次回は、そうした200mmファブでの生産品目を詳しく見ていきたいと思う。

図4 200mmファブ数(赤線表示)と月間200mm生産能力(単位:1000ウェハ、青棒表示)の変遷。左縦軸:ファブ数、右縦軸:ウェハ枚数(単位1000枚)、横軸:西暦(年)。2015年までは実績、2016年以降は予測 (出所:SEMI)