前回、F-16戦闘機を例に挙げて、「吊るしものの搭載作業における、干渉の回避」という話を書いた。今回も干渉の問題だが、積んだ後の話である。

その1:切り離す際の干渉

第277回で解説したように、吊るしものを搭載するとなった時には、最初に風洞試験、次に地上で、そして最後に飛行しながら、問題なく切り離しができるかどうかを確認するプロセスを踏む。

吊るしものを機体に固定する方法については、第272回第273回で解説した。多くの場合は、吊るすものの側に輪っかが付いていて、そこに機体側の兵装架に組み込まれた鉤をひっかけて固定している。鉤を外すと、吊るしものが落下する。はずである。

ところが、吊るしものがポツンとひとつだけ存在する場合ならともかく、左右に隣接して別の吊るしものがあると、話がややこしくなる。また、機体を取り巻く気流の状況、あるいは機体の姿勢や速度によっては、すんなりと分離してくれない可能性もある。

特に、サイズが大きいのに軽い、増槽の切り離しは問題になりやすい。増槽は御存じのように燃料タンクを吊るすものだが、これを切り離すのは、基本的に中の燃料を使い果たして空になった時。当然、増槽は軽い状態になっている。しかもサイズが大きいから、空力的な影響を受けやすい。

そのためか、機体や搭載位置によっては、切り離した増槽が隣の吊るしものに接触する事態が懸念されるという。そこで分離を確実にするため、増槽の尾端上部にヒンジを組み込む事例がある。

  • F-15の翼下パイロンに取り付ける増槽は、尾端ヒンジを併用しているようだ 写真:井上孝司

    F-15の翼下パイロンに取り付ける増槽は、尾端ヒンジを併用しているようだ

すると、鉤を切り離した時にどうなるか。まず、増槽は尾端のヒンジだけで支えられる格好になり、頭を下げて下向きになる。それからヒンジが外れるようにすれば、単に鉤を切り離すだけとするよりも、増槽の動きをコントロールしやすくなる。結果として、隣接する吊るしものと絡む危険性を低減できる。

爆弾の場合は、増槽よりもずっと重いし、今はエジェクター・ラックを使って強制的に放り出すので、こういう仕掛けを使うことはないようだ。また、レール・ローンチ式のミサイル、あるいは発射筒に収まったロケット弾なら、まず自力で前方に向けて飛び出してしまい、引力で落下するわけではない。よって、隣接する吊るしものと絡む問題は起こらなくなる。

その2:電波の干渉

以前にも書いたように、吊るしものといっても多種多様。爆弾、ミサイル、ロケット弾、増槽といったものに加えて、センサー機器などを納めたポッド類も吊るしものの一員である。そうした製品のひとつに、電子戦ポッドがある。また、電子戦装置を内蔵する機体もあり、その場合はアンテナがひっつきものとなって、機体の表面に突出することが多い。

少し前に、BAEシステムズがロッキード・マーティンから、F-35に搭載するAN/ASQ-239電子戦装置の追加受注を得て生産を強化する、と発表した。これはステルス性を維持するために内蔵式にしている電子戦装置だが、敵のレーダーなどが発した電波を受信するためのアンテナも、それを妨害するための電波を出すアンテナも、機体の各所に組み込まれている。

もちろん、受信や送信を妨げる障害物がない場所に、電子戦装置のアンテナを取り付けなければならない。そうしないと、脅威を知る邪魔になったり、脅威を無力化する邪魔になったりする。そこでF-35に限らず大抵の軍用機では、機首の左右、主翼の端、垂直尾翼の端、尾端、といったあたりにアンテナを取り付ける。

では、吊るしものとして必要な時だけ取り付ける電子戦装置はどうするか。もちろん主翼、あるいは胴体下面の兵装パイロンに取り付けるのだが、周囲に取り付ける他の吊るしものが、電波の受信、あるいは送信の妨げになったのでは困る。また、電波を出すものが複数あった時は、電波同士の干渉が発生する事態も考えなければならない。

吊るしものは大抵の場合、複数を並べるものだ。すると、電子戦装置を吊るしものとして搭載する方式は、内蔵型よりも、障害物や電波の干渉の問題が起こりやすいと考えられる。当然、それを想定して、障害物に邪魔されない、かつ、他の電波発信源による干渉を受けない場所を搭載位置に指定する必要がある。

  • EA-18Gグラウラー電子戦機。翼下に吊るしているのは、左から順にAGM-88対レーダー・ミサイル、AN/ALQ-99電子戦ポッド、増槽。さらに胴体下面にもAN/ALQ-99を吊っている。AN/ALQ-99が出す妨害電波が、隣接する吊るしものに邪魔されたら仕事にならない 写真:井上孝司

    EA-18Gグラウラー電子戦機。翼下に吊るしているのは、左から順にAGM-88対レーダー・ミサイル、AN/ALQ-99電子戦ポッド、増槽。さらに胴体下面にもAN/ALQ-99を吊っている。AN/ALQ-99が出す妨害電波が、隣接する吊るしものに邪魔されたら仕事にならない

  • 電子戦ポッドを搭載したF-4EJ改。エンジン空気取入口の下に見えるのがそれ。この位置なら、他の吊るしものよりも位置が前方なので障害物が少ない 写真:井上孝司

    電子戦ポッドを搭載したF-4EJ改。エンジン空気取入口の下に見えるのがそれ。この位置なら、他の吊るしものよりも位置が前方なので障害物が少ない

その3:視界の干渉

同じ電磁波でも、電波ではなく可視光線が問題になることもある。それが偵察ポッドという名の吊るしもの。要するに偵察用カメラだ。これをポッド式にして胴体や主翼の下面に吊るせば、必要な時だけ戦闘機が偵察機に化ける。

それはよいのだが、ポッドに組み込まれたカメラは下方だけでなく、左右にもある程度の視界を必要とする。すると、視界範囲内に障害物が入らない搭載位置を定めなければならない。だから、多くの場合、偵察ポッドは胴体下面のセンターラインに搭載する。翼下よりもセンターラインのほうが、他の吊るしものが邪魔になりにくい。

  • F-4EJ戦闘機の胴体下面に偵察ポッドを吊るして偵察機に仕立て直したのが、このRF-4EJ 写真:井上孝司

    F-4EJ戦闘機の胴体下面に偵察ポッドを吊るして偵察機に仕立て直したのが、このRF-4EJ

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。