前回は「吊るしもの」と「ひっつきもの」の定義と、それが必要になる背景事情について書いた。今回は、吊るしものを実際に主翼、あるいは胴体の下面に吊るして固定するとともに、必要に応じて切り離すためのメカニズムを取り上げる。

パイロンと兵装架と発射機

戦闘機の実物について見聞きしたり、あるいはプラモデルを作ったりしていれば「パイロン」という言葉は御存じだろう。主翼や胴体の下面に取り付く細長い張り出しで、その下面に各種の吊るしものを取り付ける。

しかしこれ、どこにでも好きなように取り付けられるというモノではない。吊るしものの中には、大きく、重いものもあるのだ。例えば、Mk.84爆弾なら900kg以上ある。そんなデカブツを吊るして飛べば、パイロンと、それを取り付ける側の機体構造には相応の荷重がかかる。

だから、パイロンは単に外板に固定すれば済むものではなく、機体構造を支える骨格、つまり主翼内部の翼桁や胴体内部の縦通材・隔壁といったものに取り付くように設計しなければならない。本連載の初めのほうでも書いたように、そもそも機体の外板なんて薄っぺらなものだから、それだけに頼ってパイロンを取り付けたら、簡単にもぎ取られてしまう。

そこで、その機体構造の骨格となる部材に、パイロンをボルトで固定する。何も吊るさない時は、パイロンを外せば軽くなるし、空気抵抗も減る。パイロンは空気抵抗を減らすためにできるだけ薄く、かつ凸凹の少ない形になるように作られているが、それでもないほうが抵抗は減る。

この、パイロンを機体構造に取り付けることで実現する「吊るしものを取り付ける場所」のことをウェポン・ステーション、あるいはステーションといい、左舷側の端から順番にナンバリングする。左端がステーション1(Sta.1)というわけだ。

  • 主翼の下面にパイロンを取り付けた例。機体はサーブJAS39Eグリペン

そして、パイロンと、それを取り付ける機体構造によって、ステーションごとに、どの程度の重量を持つものまで吊るせるかが決まる。もちろん、その重量にはパイロン自体と、そこに組み込まれる兵装架(後述)なども含む。

パイロンに組み込まれる兵装架

パイロンはあくまで吊るすための土台であって、それ自身には吊るしものを固定する仕組みは付いていない。それは別途、兵装架(ボムラックbomb rack)という独立した部品になっていて、それをパイロンの内部に組み込む仕組みになっている。

以下に示したのは、米軍で使用しているBRU-12/AまたはBRU-12A/Aという兵装架。これがパイロンの中に収まっているが、側面から見ても見えない(真下から見ると、下面は分かる)。頑丈な金属製のボックスがあり、その中に吊るしものを固定するとともに、必要に応じて切り離すためのメカが組み込まれている。

  • BRU-12/AまたはBRU-12A/A兵装架の外見。(米海軍のマニュアルより引用)

骨格となるボックスの前端と後端に、取り付け用の穴(mounting hole)が開いていて、これを介してパイロンに固定する。固定用のボルトが、吊るしものから兵装架を通じてパイロンに荷重を伝達するルートにもなる。パイロンの側では、兵装架と接続する部分、それと機体構造と接続する部分を結ぶように強度部材が通っているわけだ。

しかしこれだけ見ると、「ここにどうやって吊るしものを吊るすのか?」と疑問に思われそうだ。実は、この兵装架の内部・下面側には、可動式の「鉤」(サスペンション・フックという)が組み込まれている。そこにぶらさげる吊るしものの側には、金属製のリングが付いており、そこに鉤をひっかけて固定する。「投下」の指令が来ると、鉤が外れて吊るしものが落下するというわけ。

上の写真で「Hook Pivot Pin」というパーツが前後の2カ所に付いているのが分かるが、これが兵装を固定するための鉤を回転させるためのピンだ。ちなみに、鉤は前後2カ所にあるが、アメリカをはじめとする西側諸国の兵装架では、鉤の間隔は14インチと30インチの2種類がある。大きく、重い吊るしものだと30インチを使用する。

  • GBU-39/B誘導爆弾を4個吊るせるBRU-61/A兵装架。上面に四角い金具が2個あるが、ここにボムラックの鍵をひっかけて固定する

振れ止めは単なる振れ止め

兵装架を組み込んだパイロンを外から見ると、左右にアーチ型の張り出しがあり、その両端・下面に吸盤みたいなデバイスが付いているのが分かる。つい、これが吊るしものを固定するための仕組みかと勘違いしそうになるのだが(筆者もかつてはそう思っていた)、実は違う。

これは振れ止めといって、固定した吊るしものが左右に振れないようにするための「押さえ」でしかない。振れ止めが分かりやすいのが、以下に示したBRU-32/A兵装架の写真だ。

  • BRU-32/A兵装架の外見を示した写真。20インチ間隔で振れ止めが付いている。振れ止めの形状は、前方から見た図(右下)が理解しやすい。(米海軍のマニュアルより引用)

左右に2カ所ずつ、合計4カ所の振れ止めが出ている様子がわかる。しつこいようだが、これは左右に振れないように押さえるだけの存在で、吊るして固定する機能を受け持つのは、兵装架の内部に組み込まれた鉤のほうだ。BRU-32/Aは14インチ間隔の鉤と30インチ間隔の鉤の両方を備えており、使用する吊るしものに応じて使い分ける。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。