老朽化したBI基盤とデータのサイロ化により、分析に時間がかかり意思決定が遅れる――こうした課題は多くの製造業が直面している。

サカタのタネも、データ基盤を長年使い続けた結果、システムはブラックボックス化し、データ活用の足かせとなっていた。同社はデータ基盤の刷新により、クエリ処理時間は1500秒から1秒へと大幅に短縮した。その裏側には、単なるツール導入にとどまらない、組織文化の改革と徹底したユーザー視点の創意工夫があった。情報システム部 主席 嶺澤健一氏、同部 鷲澤柚香氏に話を聞いた。

  • 左から、サカタのタネ 情報システム部 主席 嶺澤健一氏、同部 鷲澤柚香氏

    左から、サカタのタネ 情報システム部 主席 嶺澤健一氏、同部 鷲澤柚香氏

長年使い続けたBIはなぜ機能しなくなったのか?

サカタのタネでは、BI基盤を長きにわたり使い続けていた。しかし、その間にシステムはブラックボックス化し、社内に構造を把握している人材はいない状態となっていた。

データは部門ごとに分断され、サイロ化が進行。分析は日次バッチ処理が中心で、必要なデータがそろうころにはすでに過去の情報となっていた。

さらに、新たなデータソースの追加や分析軸の変更には多額のSI費用と時間がかかり、基盤は事実上硬直化していた。

嶺澤氏は「当時、データがサイロ化されており、メダリオンアーキテクチャがなかったため、DWHで可視化する際にタイムラグが発生しており、それを解消したいと考えていました」と話す。

なぜ既存システムを壊さずに刷新できたのか?

同社はデータ基盤を構築するため、データ仮想化ソリューション「Denodo」を導入した。同製品は既存のデータベースを移行・再構築することなく、ミドルウェアとして接続し、データを仮想的に統合する。

これにより、レガシーシステムを維持したまま、新たなデータ活用基盤を構築することが可能となった。

また、古いデータベースと最新のBIツールの間に位置することで、接続の“盾”としての役割も果たしている。

多くの製造業では、古いシステムを完全に刷新することは現実的ではない。嶺澤氏は、「当社には古いデータベースがありますが、Denodoがあれば、ExcelやCSVなどの古いデータをかけあわせて分析ができます」と話す。

Denodoは、古いデータベースと最新ツールの間に入り、接続を吸収する“シールド”として機能する。これにより、レガシー資産を生かしながら、最新の分析環境を維持することが可能となる。

なぜ1500秒の処理が1秒まで短縮できたのか?

Denodoを導入した効果の最たる例が分析にかかっていた時間を大幅に短縮できたことだ。従来は複数のデータソースを都度参照していたため、処理に1500秒を要していた。

Denodo導入後は、分散したデータをキャッシュ機能によって「一つの大きな表」として扱い、さらにクエリオプティマイザーによって最適な実行計画を適用することで、処理時間を1秒まで短縮した。

これは単なる高速化ではなく、データ処理のアーキテクチャ自体の転換による成果である。

ユーザーの利便性を高めるための施策とは

ユーザー利便性を高めるため、データベース上の英数字の物理名はすべて日本語の論理名へと変換された。

さらに、複数テーブルの結合はあらかじめDenodo側で実施し、「目的別データマート」として提供。ユーザーは複雑な構造を意識することなく、必要なデータへ直接アクセスできるようになった。

また、現場ユーザーにとって、複数テーブルの結合は大きなハードルとなる。そこで同社は、分析に必要なデータをあらかじめ結合した状態で提供する設計を採用した。これにより、ユーザーはデータ加工の負担から解放され、分析そのものに集中できる環境が整った。

なぜAI活用の前にデータ整備が必要なのか?

嶺澤氏は今後の展望について、Denodoと生成AIを組み合わせて提供することを挙げた。その前提となるのがデータ品質の向上だ。

データがサイロ化され、整理されていない状態では、AIは正確な結果を導き出せない。同社は、メタデータ管理やデータカタログを活用し、データに文脈を持たせる取り組みを進めている。「データをきれいにするのは難しい」と同氏は話す。

データ仮想化基盤は、AI活用のための“土台”としても機能している。

老朽BIは“壊さず刷新”できる――サカタのタネが示した現実解

老朽化したシステムは、必ずしも作り直す必要はない。サカタのタネの事例は、既存資産を活かしながら、複数の工夫を積み重ねることでデータ活用を大きく前進させられることを示している。

特に、1500秒かかっていた分析を1秒に短縮したインパクトは大きい。これは単なる高速化ではなく、企業の意思決定そのものを変える取り組みと言える。