今回は、吊るしものを実際に主翼、あるいは胴体の下面に吊るす仕組みと関連する話題を、いろいろ取り上げてみたい。

吊るしものには電気配線や燃料配管が必要

自由落下爆弾であれば、地上で必要な設定をすべて行った上で搭載するから、後はそれを目標の上空まで持って行って投下するだけである。しかし、ミサイルを初めとする誘導武器では事情が異なる。

まず、発射前に誘導機構に対してデータや指令を送り込む必要がある。例えば、対艦ミサイルだったら、目標となる敵艦の位置(緯度と経度)を入力してやらなければならない。相手は海上を動き回っているものだから、発進前に地上で数字を入力しておく、というわけにはいかないのだ。

また、最近はプログラマブル信管を使っている事例もある。信管とは爆弾、あるいはミサイルの弾頭を起爆させる装置だが、撃発(何かにぶつかると起爆する)、遅発(何かにぶつかって、少し間をおいてから起爆する)、空中起爆など、さまざまな動作モードとパラメータがある。それをその場でセットしてから投下する場面がある。

いずれにしても、機体と吊るしものの間で「会話」が発生するので、電気配線をつないでおかなければならない。いうまでもないことだが、搭載する兵装が備えているインタフェースと、物理的にも論理的にも合致していなければならない。

一例を挙げると。西側諸国では、GPS(Global Positioning System)で誘導する誘導武器について、目標データを送り込むためにMIL-STD-1760という統一規格のインタフェースがある。裏を返せば、GPS誘導兵装を搭載・投下するには、それを取り付ける兵装架にMIL-STD-1760規格の配線を引いて、コネクタを用意しておかなければならないということだ。

いちいちケーブルをつなぐのでは面倒なので、有線の代わりに無線にしたら、という発想が出たことがある。しかしこれまでのところ、実験は行っているが、広く普及するには至っていない。妨害や干渉の問題が懸念されたのだろうか。

この辺の事情はセンサー機器も同様で、センサー機器を制御したり、センサーが捉えた情報を伝送したりするための電気配線を用意する必要がある。

また、戦闘機では増槽を取り付けることもある。すると、増槽を取り付けるステーションには燃料の配管も引っ張ってきておく必要がある。物理的に増槽を吊るすことができても、そこに入れている燃料を取り出せないのでは意味がない。

こういう事情があるので、「許容重量さえ超過していなければ、どこに何を吊るしてもよい」というわけにはいかない。

安全に投下できることを確認するための長いプロセス

また、吊るしものを投下する際に、投下した吊るしものが機体そのもの、あるいは隣接ステーションの吊るしものにぶつかるようなことがあってはならない。それでは飛行の安全を確保できない。

それに加えて、吊るしものを取り付けて飛ぶということは機体の外形や重量バランスが変化するということだから、空力や振動に関する影響が生じる可能性につながる。空気抵抗やレーダー反射が増加するのは当然だが、機体の周囲を取り巻く空気の流れに変化が生じて空力特性を悪化させたり、振動を引き起こしたりするようなことがあってはならない。

だから、吊るしものを取り付けるには、一連の試験を実施して、問題なく飛行や投下ができることを確認する必要がある。試験で検証を済ませていない場所に、試験で検証を済ませていないものを吊るして飛ぶことはできない。

まず、地上で吊るしものの着脱を行い、物理的に取り付けられることを確認する。これをフィット・チェックという。次に、地面に穴(ピット)を掘った場所の上に吊るしものを取り付けた機体を持って行って、切り離したときに安全に投下できることを確認する。

  • 地上に設けたピットの上で、F-35の機内兵器倉から兵装を投下する試験を実施している様子 写真:USAF

    地上に設けたピットの上で、F-35の機内兵器倉から兵装を投下する試験を実施している様子 写真:USAF

空力面については、まず機体に吊るしものを取り付けた状態の模型を製作して、風洞試験を実施する。それで問題がないことを確認したら、実機による飛行試験に移る。最初は吊るしものを取り付けたままの状態でさまざまな飛行条件下で飛ばすが、これを拘束飛行試験(captive flight test)という。

吊るしものを投下あるいは発射する分離試験(separation test)は、その後だ。これも、水平直線飛行だけでなく、さまざまな飛行条件の下で実施しなければならない。

こうやって瀬踏みをするように確認・検証を進めることで初めて、吊るしものの搭載と投下をやってもよいという話になる。意外と手間がかかるプロセスなのだ。

裏返しの風洞試験用模型

その、吊るしものの分離に関わる風洞試験を行っている模様を撮影した写真が配信されることがある。

空力に関する試験だから、実機を使用するときと同じ形態・条件を再現しなければならない。だから、分離する吊るしものの模型は後方からアームで支える形になっている。

前方あるいは上下左右から支えていると、その支えの部材が空力的影響を引き起こしてしまい、実態に合わない試験結果につながる。後方からアームで支えていれば、アームによる影響は、機体の周囲を通り過ぎた後の気流にしか及ばない。

そのアームを動かすことで、兵装の模型が、機体の模型から徐々に離れていくようになっている。機体の模型も同様に、後方からアームで支えている。

ときどき、以下の写真にあるように、機体の模型を裏返しにして試験を行っているのが面白い。切り離した吊るしものの模型は、アームの操作によって、上に向けて離れていく。

  • F-35の兵装分離に関する風洞試験の一例。これは機体の模型が裏返しになっているが、裏返しにしないで試験を実施していることもある 写真:USAF

    F-35の兵装分離に関する風洞試験の一例。これは機体の模型が裏返しになっているが、裏返しにしないで試験を実施していることもある 写真:USAF

実機では機体上面を上にした状態で飛行して、投下した吊るしものは下方に向けて落下する。しかし、重要なのは機体と吊るしものの位置関係と空力的な影響だけだから、裏返しにしても差し障りが生じるわけではない。そこで試験のやりやすさを考慮して、裏返しでやる場面も出てくる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。