超短パルスレーザーで発生させる電子線パルスは、光電面からの放出後、ただちに電子間の反発力でパルス幅が1兆分の1秒以上に広がってしまうため、外部から加える電場を使って、広がろうとするパルスの前半部の速度を抑え、逆に後半部は加速することが必要不可欠だという。
そこでまず、シミュレーション計算結果などをもとに、約30cm角に収まる超小型加速器技術を利用する方法が検討された。具体的には、この超小型加速器の温度を0.01℃の正確さで制御しつつ、そこに入力する電子パルス制御用RF電磁波の強度と位相を、電子線パルスの形に合うように精密に制御するというものだという。
次に、昨今急速に進展しているギガヘルツ域のRFの発生・制御技術を活用し、超高精度RF発振器の電磁波によって、レーザーと超小型加速器の双方を精密制御する装置が開発された。その結果、パルス幅10兆分の1秒以下のパルス電子線発生に成功したとする。実際には、75フェムト秒以下程度と推定されるという。
同装置の性能確認とデモのために、シリコン(Si)単結晶を対象とした観測が行われた。Si単結晶では、光学的に50フェムト秒以下程度の超高速構造変化が光励起で起きていると予測されている。そして観測では、構造変化が実際に予測通りの時間スケールで起きていることが確認されたとする。
今回開発された技術は今後、光メモリー、光エネルギー変換(人工光合成)など、各種光デバイスの超高速化・高効率化対応材料開発に貢献することが期待されるという。
そして研究チームは今後、今回開発された装置を、物質開発者にとって使いやすく、独自性を維持した装置にするために、以下の3点の取り組みを共同で継続する予定としている。
- 超短パルスレーザーを用いて発生させるテラヘルツ(THz)光を用いて、パルス幅を直接監視する常設的な装置を開発し、RF電磁波のさらなる精密制御化によって、より短い電子線パルスの発生を目指す。
- このTHz光によって誘起される、新しい物質状態(フロッケ状態)の構造変化の確認を行うことで、新しい光電材料、特に誘電体の光制御の可能性を追求する。
- 電子線パルスのスピン状態を制御し、それが磁性体の光誘起磁性変化(光磁石)研究に実際に使えるのかどうかを調べるという試みに挑戦する。