米国のロケット開発スタートアップの「アストラ・スペース(Astra Space)」は2021年8月29日(日本時間)、「LV0006」ロケットの試験打ち上げを実施した。

ロケットは横滑りしたあと、ゆっくりと上昇。不完全な状態で飛行したあと、最終的に地上からのコマンドで飛行を中止。打ち上げは失敗に終わった。

同社は「今回の試験で得られた知見を将来に活かす」と前向きなコメントを発表している。

  • Astra

    打ち上げ直後、5基あるエンジンのうち1基が停止し、ホバリングしつつ横滑りしたLV0006 (C) Astra

LV0006は日本時間8月29日7時35分(アラスカ時間8月28日14時35分)、アラスカ州コディアック島にあるPSCA (Pacific Spaceport Complex-Alaska)の第3B発射台から打ち上げられた。

ロケットはすぐには上昇せず、ホバリングしつつやや傾いて横移動し、約20秒後にようやく上昇。打ち上げから約2分半後、第1段の燃焼が終了したあたりで、地上の安全監理チームが全エンジンを停止させるコマンドを送信し、飛行を中止。機体はその後、慣性で高度約50kmまで上昇したのち、太平洋に落下した。人的被害はなかったという。

アストラによると、離昇直後、5基のメイン・エンジン「デルフィン」のうち1基が、トラブルにより停止したという。また、打ち上げ直後のロケットの第1段の推力重量比(TWR)は1.25であり、5基のエンジンのうち1基が止まると1、すなわち自重と推力がほぼ釣り合う状態となったためにホバリングすることになり、やがて推進剤を消費して軽くなったことで、4基のエンジンだけでも上昇を始めたのだとしている。

エンジンが停止した原因は現時点で不明で、「連邦航空局(FAA)と密接に連携して事故調査を進める」としている。

計画では、高度415km、軌道傾斜角70度の軌道に入ることになっていた。ロケットには衛星は搭載されていなかったが、第2段に、米国宇宙軍からの資金提供を受けて開発したロケットの性能確認用の機器「STP-27AD1」を装着しており、結合したまま打ち上げ時の環境などのデータを取得、地上に送ることになっていた。

同社創業者で、会長兼CEOであるクリス・ケンプ(Chris Kemp)氏は「米国宇宙軍のためのミッション目標をすべて達成できなかったことは残念です。しかし、今回の試験飛行を通じて、非常に多くのデータを取得することができました。得られた知見は、現在製造中のLV0007を含む将来のロケットに反映させていきます」と、前向きなコメントをしている。

  • Astra

    打ち上げを待つLV0006 (C) Astra

アストラとは?

アストラ・スペース(Astra Space)は2016年に、カリフォルニア州に設立されたスタートアップ企業である。

同社の「ロケット」(ロケットという名前のロケット)は全長約13.1m、直径1.3m。推進剤に液体酸素とケロシンを使う2段式ロケットで、地球低軌道に最大630kg、高度500kmの太陽同期軌道に335kgの打ち上げ能力をもつ。

同社のロケットは、「世界一シンプルで製造しやすいロケット」であることを特徴とする。たとえばロケットの機体にはアルミニウムを使用、エンジンの構造も可能な限り簡素化しており、いま流行りのカーボン素材や3Dプリンターなどは使っていない。機体の寸法も標準的な輸送コンテナに収まるように設計されており、輸送コストの削減にも配慮。競合他社が挑みつつある1段目の回収、再使用もしない。

また、「100%の信頼性は求めない」とし、それと引き換えに大幅なコスト削減を図っている。

一方で、たとえばエンジンのターボ・ポンプに電動モーターのポンプを使ったり、最初から完全な完成品を目指して開発するのではなく、設計・実装・試験の工程を何度も繰り返して、完成度や質を徐々に高めていく反復型開発という開発手法を採用したりなど、最近の技術革新やトレンドは押さえている。とくに、反復型開発を採用したことで、徐々に打ち上げ能力などの性能を向上させつつ、コストを下げていくような発展が可能だという。

こうした小型・超小型衛星の打ち上げに特化した超小型ロケット(Micro Launcher)の開発は近年活発になっており、世界中に100社以上あるとされる。米国のロケット・ラボ(Rocket lab)、ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)などはすでに運用を始めているなど、ライバルがひしめき合っている。

アストラは前述のような徹底した低コスト化により、1機あたりの打ち上げ価格は約250万ドルを提示。ロケット・ラボの「エレクトロン(Electron)」ロケットは約750万ドルという打ち上げ価格を提示しているため、約3分の1ということになる。

資金調達も順調で、これまでにGoogleの元CEOエリック・シュミット氏が率いるベンチャー・キャピタルInnovation Endeavorsや、Airbus Venturesなど、いくつもの投資ファンドから、合計1億ドル以上を調達している。

アストラは2018年、ロケットの試作機による軌道に到達しない(サブオービタル)試験飛行を2回実施。どちらもトラブルで失敗に終わったものの、その成果を踏まえて衛星打ち上げを目指した試験機を開発。そして2020年9月12日には、初の軌道到達を目指した「ロケット3.1」の打ち上げ試験に挑んだが、ロケットの誘導システムに問題が起き、打ち上げから30秒後に飛行を中断させるコマンドが送られ、失敗に終わった。

同年12月16日には、改良を施した「ロケット3.2」を打ち上げ。前回の打ち上げでつまずいた第1段機体の燃焼による飛行を無事に完了し、フェアリングの分離や、第1段と第2段の分離、さらに第2段エンジンの点火にも成功し、ロケットは高度100kmの宇宙空間に到達したが、第2段エンジンが予想よりも早く燃料のケロシンを使い切ってしまったことで停止。軌道速度には達せず、打ち上げは失敗に終わっていた。

  • Astra

    2020年12月に打ち上げられたロケット3.2。宇宙空間には到達したが、軌道への投入には失敗した (C) Astra

今回打ち上げられたLV0006は、さらに改良した「ロケット3.3」と呼ばれる機体の1号機で、第1段のタンクの延長とそれによる推進剤搭載量の増加、第2段エンジンの改修などが行われた。

同社はすでに次号機「LV0007」の製造を進めているという。

同社はまた、すでに24件以上の打ち上げ契約を取っており、100機以上の衛星が打ち上げを待っている状態にあるという。

さらに昨年12月には、NASAとの間で「ベンチャー・クラス・ローンチ・サービス・デモンストレーション2(VCLS Demo 2)」という契約を交わし、今後NASAが開発するキューブサットやマイクロサット、ナノサットなどの超小型衛星を打ち上げる業者のひとつにも選ばれている。

参考文献

Astra Conducts Test Launch | Astra
AstraPressKitLV0006R4 - AstraMediaKit_LV0006.pdf
Q+A With Dr. Adam London, Astra Founder And CTO | Astra
Launch Services | Astra
Chris Kempさん (@Kemp) / Twitter