米国のロケット・ベンチャー企業「アストラ(Astra)」は2020年12月15日、自社開発した超小型ロケット「ロケット3.2」の打ち上げ試験を実施した。

ロケットは高度100kmを超え、宇宙空間に到達。トラブルにより軌道速度には達しなかったが、試験としては大きな成功を収めた。

同社では、改修は比較的簡単であり、次の打ち上げで衛星の軌道投入が成功する可能性は高いとしている。

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    アストラの「ロケット3.2」の打ち上げ (C) Astra / John Kraus

アストラの「ロケット」

アストラ(Astra)は2016年に創設された、カリフォルニア州を拠点とする企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることに特化した超小型ロケット(Micro Launcher)を開発している。

同社のロケットの全長は11.6mの2段式。地球低軌道に約100kg、太陽同期軌道に数十kgの打ち上げ能力をもつ。

同社が目指すのは、「世界一シンプルで製造しやすいロケット」。たとえばロケットの機体にはアルミニウムを使用、エンジンの構造も可能な限り簡素化している。いま流行りの炭素繊維複合材や3Dプリンターなどは使っておらず、もちろん1段目の回収、再使用もしない。その姿勢は、ロケットの名前がずばり「ロケット(Rocket)」であるというところにも表れている。

また、「100%の信頼性は求めない」とし、それと引き換えに大幅なコスト削減を図るとしている。

一方で、「安かろう、悪かろう」というわけではなく、たとえばエンジンのターボ・ポンプに電動モーターのポンプを使ったり、最初から完全な完成品を目指して開発するのではなく、設計・実装・試験の工程を何度も繰り返して、完成度や質を徐々に高めていく反復型開発という開発手法を採用したりなど、押さえるべき技術革新やトレンドは押さえている。とくに、反復型開発を採用したことで、徐々に打ち上げ能力などの性能を向上させつつ、コストを下げていくような発展が可能だという。

ロケットの1機あたりの打ち上げ価格は250万ドル程度を目指すという。ちなみに、超小型ロケットの分野でトップ・ランナーである、米国ロケット・ラボ(Rocket Lab)の「エレクトロン(Electron)」ロケットは約750万ドルであり、わずか3分の1である。同社のこのロケットにより、「宇宙へのアクセスを毎日提供すること」を目指すという。

資金調達も順調で、これまでにGoogleの元CEOエリック・シュミット氏が率いるベンチャー・キャピタルInnovation Endeavorsや、Airbus Venturesなど、いくつもの投資ファンドから、合計1億ドル以上を調達しているという。

同社は2018年に、試作型のロケットを使い、アラスカ州南部のコディアック島にあるPSCA(Pacific Spaceport Complex - Alaska、大西洋宇宙港施設・アラスカ)から軌道に到達しない(サブオービタル)試験飛行を2回実施。どちらもトラブルで失敗に終わったものの、大きな成果が得られたとしている。

また今年9月12日には、初の軌道到達を目指した「ロケット3.1」の打ち上げ試験を実施。しかし、ロケットの誘導システムに問題が起き、打ち上げから30秒後に飛行を中断させるコマンドが送られ、失敗に終わった。

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    打ち上げを待つ「ロケット3.2」。同社の発射場はアラスカ州南部のコディアック島にあるPSCA(Pacific Spaceport Complex - Alaska、大西洋宇宙港施設・アラスカ)にある (C) Astra / John Kraus

ロケット3.2の打ち上げ

そして日本時間12月16日5時55分(太平洋時間15日12時55分)、2回目の軌道への打ち上げを目指した試験機「ロケット3.2」が、PSCAを離昇した。

ロケットは順調に飛行し、前回の打ち上げでつまずいた第1段機体の燃焼による飛行を無事に完了。フェアリングの分離や、第1段と第2段の分離、さらに第2段エンジンの点火にも成功し、ロケットは高度100kmの宇宙空間に到達した。

第2段エンジンはその後、軌道速度に向けて燃焼を続けていたものの、途中で燃料のケロシンを使い切ってしまったことで予定より早期に停止。この結果、速度は目標の軌道速度(秒速7.68km)にわずかに足らない秒速7.2kmにとどまり、地球を回る軌道に乗ることはできなかった。機体はその後、地球の大気圏に落下した。

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    宇宙空間に到達したロケット3.2から撮影された地球と宇宙。残念ながら軌道速度には達せず、このあと大気圏に落下した (C) Astra

アストラによると、ロケットのハードウェアとソフトウェアはすべて正常に動作していたものの、第2段の燃料と酸化剤の混合比がわずかにずれていたため、燃料を先に使い切ってしまったという。同社では「混合比を微調整するだけで対処可能」としており、「数か月後には次のロケット(ロケット3.3)の打ち上げを行い、衛星を軌道に投入することができるだろう」としている。

同社は、「2020年12月15日という日は、アストラと米国にとって歴史的な日となった。前回の打ち上げからわずか3か月後、私たちはふたたびロケットを打ち上げ、第1段の燃焼、フェアリングの分離、第1段と第2段の分離という目標をすべて達成した。今年、多くの困難に直面した中で、このマイルストーンを達成できたことを誇りに思う」とコメントしている。

現時点で、ロケット3.3はほぼ完成しており、さらに今回の飛行データに基づいて、性能を向上させることを検討しているという。

同社はまた、すでに24件以上の打ち上げ契約を取っており、100機以上の衛星が打ち上げを待っている状態にあるという。

さらに今月12日には、NASAとの間で「ベンチャー・クラス・ローンチ・サービス・デモンストレーション2(VCLS Demo 2)」という契約を交わし、今後NASAが開発するキューブサットやマイクロサット、ナノサットなどの超小型衛星を打ち上げる業者のひとつにも選ばれている。

ロケット3.2の打ち上げ試験の様子

ロケット3.2の打ち上げ試験の様子を収めた動画 (C) Astra

2021年、超小型ロケットは熾烈なシェア争いに

現在、超小型ロケットによる商業打ち上げ市場はロケット・ラボがほぼ独占しているが、仮にアストラが数か月以内に衛星の打ち上げに成功し、商業打ち上げ市場に参入すれば、いよいよ競争が起こることになる。

また、来年以降には、ファイアフライ・エアロスペースが開発している「アルファ(Alpha)」や、ヴァージン・オービットが開発している空中発射型の「ローンチャーワン(LauncherOne)」、レラティヴィティ・スペースの「テラン1(Terran 1)」など、米国だけでも複数社のロケットが運用に入るとみられている。さらに欧州や日本などの企業も、このクラスのロケットの開発を活発に行っている。

くわえて、米国のスペースXや欧州のアリアンスペースなどは、大きなロケットで小型・超小型衛星をまとめて打ち上げる「ライドシェア」というサービスを始めており、打ち上げ時期などの自由度は超小型ロケットより劣るが、衛星1機あたりの打ち上げ価格が安くなるというメリットがあることから、選択肢のひとつとして、超小型ロケットのライバルとなっている。

こうした動きを背景に、今後数年のうちに競争は一気に激化し、また吸収合併や撤退といった淘汰も始まるものとみられる。

その一方で、顧客となる小型・超小型衛星は、何年も前からブームとなり、起業数や衛星の打ち上げ需要が右肩上がりだったが、最近では一段落し、吸収合併や撤退といった動きも見え始めている。こうした動きが、超小型ロケットの市場にどういう影響を与えるかという点も注意が必要である。

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    発射台から離昇したロケット3.2 (C) Astra / John Kraus

参考文献

Astraさん (@Astra) / Twitter
Astra Makes It To Space! | Astra
Astra | Reserve A Small Satellite Launch
NASA Awards Venture Class Launch Services Demonstration 2 Contract | NASA