米国の宇宙企業ヴァージン・オービットは2021年1月18日、空中発射型の小型ロケット「ローンチャーワン」による衛星の打ち上げに初めて成功した。

これまで小型・超小型衛星の打ち上げは、米国のロケット・ラボがほぼ独占していたが、ヴァージン・オービットの参入でいよいよ市場競争が始まることになる。

空中発射ロケットは、地上から打ち上げるロケットと比べ、長所もあれば短所もあり、これまでは短所のほうが大きく、商業的な成功を収めた例はない。はたしてローンチャーワンは、その苦い歴史に終止符を打てるのだろうか。

  • ローンチャーワン

    コズミック・ガールから分離され、エンジンに点火したローンチャーワン。このあと宇宙へと駆け上がり、衛星の軌道投入に成功した (C) Virgin Orbit

ヴァージン・オービットのローンチャーワン

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、小型・超小型衛星の打ち上げビジネスを目的としている。

サー・リチャード・ブランソン氏が率いる英国ヴァージン・グループの一社で、もとは2012年に、空中発射型の宇宙船を開発しているヴァージン・ギャラクティックの内部プロジェクトとして始まり、2017年に分社化されて独立した。

同社が開発したローンチャーワン(LauncherOne、ランチャーワンとも)は、全長約21mで、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式のロケットである。また、オプションで3段目を追加することもできる。

地球低軌道に約500kg、太陽同期軌道に約300kgの打ち上げ能力をもち、小型・超小型衛星の打ち上げに特化している。この規模のロケットは超小型ロケット(Micro Launcher)と呼ばれ、近年世界的に開発が活発に行われている。

打ち上げ価格は、かつては「1機をまるごと専有する場合で約1200万ドル」とされていたが、現在は価格が公表されておらず、正確な金額は不明である。

そして、ローンチャーワン最大の特徴が、地上の発射台からではなく、空中から発射されるロケットであるということである。発射の母機には「コズミック・ガール(Cosmic Girl)」と名付けられたボーイング747を使い、翼の下に懸架されて高度約3万ft(約9km)まで運ばれたのち、分離。エンジンに点火して飛んでいく。

空中発射には、地上から発射するロケットと比べ、地上に固定の発射台がいらないなどいくつかの利点があり、打ち上げの低コスト化のほか、打ち上げの自由度、柔軟性、即応性を高めることができる可能性がある(詳しくは後述)。

その利点もあり、打ち上げの拠点として、カリフォルニア州のモハーヴェ航空・宇宙港のほか、フロリダ州のケネディ宇宙センター、そして日本の大分空港など、複数の場所を使い、高頻度かつ柔軟な打ち上げサービスを行うことが計画されている。

  • ローンチャーワン

    ローンチャーワンは、ボーイング747-400「コズミック・ガール」から発射される空中発射ロケットである (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

2回目の発射試験で成功

ヴァージン・オービットは、地上での燃焼試験や、推進剤を積んでいない状態のローンチャーワンを投下する試験などを積み重ねたのち、2020年5月25日(現地時間)に、衛星の軌道投入を目指した初の打ち上げ試験に挑んだ。

しかし、コズミック・ガールからの分離直後、推進剤の供給経路が破損し、エンジンが停止。打ち上げは失敗に終わった。

その後、同社は対策を施し、今回2回目となる衛星打ち上げ試験に挑戦。1回目の試験では、衛星の代わりに重りを搭載して打ち上げられたが、今回はNASAとの契約により、10機のキューブサット(超小型衛星)が搭載された。

ローンチャーワンの2号機はコズミック・ガールに搭載され、日本時間1月18日3時50分(太平洋標準時17日10時50分)に、モハーベ航空・宇宙港を離陸。チャンネル諸島の南約80kmの太平洋上に設定された発射空域へ向けて飛行した。

そして4時39分ごろ、コズミック・ガールから分離。第1段エンジンに点火し、宇宙へ向けて駆け上がっていった。その後、第1段と第2段の分離、第2段の点火にも成功。宇宙空間に到達したあとも軌道速度に向けて加速し、やがて第一宇宙速度に達した。

第2段は一度エンジンを停止。約30分の慣性飛行後、再度エンジンに点火し、目的の軌道に入った。すべてが順調に進み、7時28分ごろ、搭載していた10機のキューブサットを分離し、計画どおりの軌道へと送り込んだ。

  • ローンチャーワン

    宇宙空間に到達したローンチャーワンから撮影された地球 (C) Virgin Orbit

この成功により、ローンチャーワンは空中発射型の液体推進剤ロケットとして、初めて軌道に到達したロケットとなった。また、固体推進剤も含めた空中発射ロケットとしては米国ノースロップ・グラマンが運用する「ペガサス」に次いで2例目、米国の民間ベンチャーが開発したロケットが衛星の軌道投入に成功したのは4例目となった。

ヴァージン・オービットのダン・ハート(Dan Hart) CEOは「宇宙への新たな扉が開きました! この革命的な打ち上げシステムを完全に実証するという努力が、完璧な形で報われ、これ以上の喜びはありません」とコメントしている。

また、サー・リチャード・ブランソン氏は「私たちは多くの人々が不可能だと考えていたことを達成することができました。長年の努力の集大成であり、これから多くの小型衛星を軌道へ解き放つことになるでしょう」とコメントしている。

打ち上げ試験が成功したことで、ローンチャーワンは次の打ち上げから、商業サービスに移行することになる。同社はすでに、米国宇宙軍や英国空軍、スウォーム・テクノロジーズ、イタリアのSITAEL、デンマークのGomSpaceなどといった顧客から、衛星の打ち上げ契約を取り付けている。

また、カリフォルニア州ロングビーチにある同社の製造施設では、すでに数機のローンチャーワンの組み立てが進んでいるという。