三菱電機のパワー半導体の開発・製造を行うパワーデバイス製作所の関係者によると、同社はシャープから買い取った広島県福山市の半導体工場を当初の計画通り、2021年11月より稼働させる見通しで、300mmパワー半導体試作ラインの準備も進んでいるとのことだ。

三菱電機のパワー半導体は、福岡県と熊本県にある前工程工場にて製造されているが、いずれも150mm~200mmラインで、300mmラインは今回の福山の試作ラインが同社にとって初の試みとなる。ただし、実際に量産規模の生産能力はない模様で、日本への進出が噂されているTSMCの300mmスペシャリティファブに、将来的には製造委託を行う可能性が考えられる。

アナログ/パワー半導体も300mmで勝負する時代が到来

これまでアナログ/パワー半導体はレガシープロセスを用いてきたこともあり200mmウェハが主流であった。しかし、世界では300mmウェハによるスケールメリットなどを活かし、競争力を高めようという動きが活発化している。例えば、パワー半導体トップのInfineon Technologiesは、オーストリアのフィラッハにて建設を進めている新300mmパワー半導体工場の操業開始を同社の2021会計年度第4四半期(2021年7-9月)中に前倒しすることを明らかにしているほか、同じく欧州大手のSTMicroelectronicsもイタリアのアグラテで300mmアナログ/パワー半導体工場の建設を進めており、2021年6月には、そこにTower Semiconductorが参画することも発表している。

パワー半導体分野の日本勢トップは三菱電機だが、それに先んじて東芝も加賀東芝エレクトロニクスにて300mmパワー半導体ラインを構築中(2023年度上期稼働予定)で、今後もアナログ/パワー半導体の300mm化を進める企業は国内外問わず出てくるものと予想される。

なお日本は、多数のパワー半導体メーカーがいるものの、そのほとんどが200mm以下のラインであり、300mm化が遅れているのが現状である。近年、中国勢が国策でパワー半導体に注力し始めており、日本勢はこのままだと、先行する欧州勢と猛追してくる中国勢の板挟み状態となることが危惧される。

福山工場の一部を切り離したシャープの協業相手はいまだ見つからず

一方、福山事業所の一部を三菱電機に売却したシャープだが、2019年4月に半導体の設計・製造などを担当する電子デバイス事業ならびにレーザー素子の設計・製造などを担当するレーザー事業を、それぞれ「シャープ福山セミコンダクター(SFS)」および「シャープ福山レーザー(SFL)」に分社化している。

その分社化の際、シャープの戴正呉会長兼社長(当時)は「シャープの経営資源には制限があるので、本体から切り離して子会社化することで他社と組むチャンスを増やす。協業相手としては国内外の同業他社に加え、親会社である鴻海精密工業も選択肢の1つだ」と語っていたが、結局、鴻海を含め、シャープと組もうとする企業は現れていない模様である。三菱電機もシャープとの協業で試作ラインを構築しているわけではなく、シャープから土地建物の一部を購入して独自に運営しようというものである。シャープは長年にわたってリソースを液晶事業に投じてきた経緯があり、半導体工場への設備投資がなかなか行わてこなかった。その結果、レガシー化が進んでおり、その先行きは多難であると言える。

2021年9月3日訂正:記事初出時、300mmパワー半導体の試作ラインが11月より稼働見通しと記載させていただいておりましたが、正しくは福山市の半導体工場そのものは11月より稼働の見通しながら、300mmパワー半導体試作ラインそのものは同月からの稼働ではないということが判明しましたので、タイトルならびに本文の当該箇所の訂正を行わせていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。