三菱電機は6月11日、シャープの福山事業所(広島県福山市)の一部の土地と建屋を取得し、自社のパワー半導体製品の製造を担当するパワーデバイス製作所(本部は福岡市)の新たな製造拠点(ウェハプロセス工程)として開設することを決定したことを明らかにした。

車載用途の需要増加を見越し、投資を決定

パワー半導体の需要はさまざまな機器のエレクトロニクス化やIoT機器の増加などに伴い年々高まる傾向にある。そうしたパワー半導体に対する需要の増加に対し、同社も新たな製造拠点設置に向けた検討を進める中、今回、シャープの半導体製造拠点である福山事業所の一部の土地と建屋(延床面積:約4万6500m2、3階建て)を取得することにシャープと合意したという。

土地・建屋・既存設備の取得、今後の設備投資を含む投資金額は約200億円で、2021年11月の稼働開始を予定している。これにより、生産能力を拡大し、パワーデバイス事業のさらなる拡大を目指すとしている。

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    シャープ福山事業所。手前右端がセンタービル(本社機能)、手前中央が第1工場、その奥が今回の売却対象となった順に第2工場と第3工場。左手前が設計センター、その左奥の一番大きな建物が第4工場 (出所:シャープWebサイト)

買収対象は築30年のレガシー前工程ファブ

中国地方の半導体業界関係者によると、三菱電機が今回買収するのは、シャープ福山事業所内に設置されている「第2工場」と「第3工場」と呼ばれる建屋と土地。第2工場は1989年稼働開始、第3工場は1993年稼働開始とおよそ築30年というレガシーな前工程ファブで、シャープの半導体事業縮小の影響で遊休施設となっていたようだ。今回の買収には土地と建屋は含まれているが、従業員は含まれていないとのことで、三菱電機とシャープが協業する予定も今のところはないという。ちなみにシャープ福山事業所に勤務している従業員は約1000名ほどだという。

シャープは半導体事業を子会社化、外部資金を狙った結果…

シャープは2019年4月1日付けで、半導体の設計・製造などを担当する電子デバイス事業ならびにレーザー素子の設計・製造などを担当するレーザー事業を、それぞれシャープ福山セミコンダクター(SFS)およびシャープ福山レーザー(SFL)に分社化した。

戴正呉会長兼社長(当時)は分社化について「シャープの経営資源には制限がある。子会社化で他社と組むチャンスを増やし、成長につなげたい。協業相手としては国内外の同業他社に加え、親会社である台湾・鴻海精密工業も選択肢の1つだ」と語っていた。またシャープは、2020年5月末に、福山事業所に同居するカメラモジュール事業も2020年度内に分社化することを発表しており、こちらも「分社化により、他社からの出資による外部資金の獲得を目指す」としているが、少なくとも半導体事業に関しては、期待していた他社との協業による事業発展の資金獲得は実現できていないようで、今回の土地・建屋の売却は苦肉の先に出たものだとみられる。