米国の宇宙企業ブルー・オリジンは2021年7月20日、宇宙船「ニュー・シェパード」による初の有人宇宙飛行に成功した。

飛行には、同社創業者で、Amazonの創業者でもあるジェフ・ベゾス氏のほか、ベゾス氏の弟など4人が参加。宇宙飛行の史上最高齢と最年少の記録も更新した。

今月11日には、宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックも創業者を乗せた宇宙飛行試験に成功。本格的な宇宙旅行の実現が近づいてきている。

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    ベゾス氏ら4人を乗せて飛び立ったニュー・シェパード (C) Blue Origin

ブルー・オリジンの「ニュー・シェパード」

ブルー・オリジン(Blue Origin)は、2000年に実業家のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業である。ベゾス氏はネット通販大手Amazonの創業者で、米有力紙「ワシントン・ポスト」のオーナーでもあり、そして世界一の大富豪としても知られる。

同社、そしてベゾス氏は、「エネルギー問題や環境問題から地球を守る」という理念を持ち、そのために「人類が宇宙に進出し、活動の場とする」ことを目標に掲げている。そして、そのための手段として宇宙船「ニュー・シェパード(New Shepard)」や大型ロケットなどの開発を手掛けているほか、スペース・コロニーを建造する構想も打ち出している。

ニュー・シェパードが目指すのは「サブオービタル(Suborbital)飛行」と呼ばれる形式の宇宙飛行である。サブオービタル(準軌道、弾道飛行)とは、地球を回る軌道に乗らない宇宙飛行のことで、高度約80~100kmの宇宙空間まで上昇したのち、宇宙空間に数分間滞在し、すぐに地上に帰ってくるような飛行を指す。地球のまわりを回る軌道飛行と比べると飛行時間は短いが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わったり、宇宙実験を行ったりすることができ、宇宙旅行から科学実験まで一定の需要が見込まれている。

ニュー・シェパードは、全長約18mの小型の宇宙船で、機体はロケット部分の「ブースター」と、乗員・乗客が乗る「クルー・モジュール」の2つの部分から構成されている。ブースターは、液体酸素と液体水素を推進剤とする「BE-3」エンジンを1基装備しており、上昇から着陸まですべてをこなす。

クルー・モジュールには最大6人が乗れるほか、科学実験装置も搭載できる。パイロットは不要で、完全に自律的に飛行できる。また、ブルー・オリジンが「宇宙船史上最も大きい」と謳う、107cm×71cmもの大きな窓をもち、船内からの眺めのよさに配慮されている。

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    ニュー・シェパードのクルー・モジュールから見える光景(写真は今年4月の試験飛行時のもの) (C) Blue Origin

両者は打ち上げ後、上空で分離。高度約100kmの宇宙空間に到達したのち、それぞれ降下する。ブースターはエンジンを逆噴射して着陸。クルー・モジュールはパラシュートで降下し、着地寸前には固体ロケットを地面に向けて噴射して衝撃を和らげる。ブースターもクルー・モジュールも再使用が可能で、打ち上げコストの削減と打ち上げ頻度の向上が図られている。

名前のシェパードとは、米国初の有人宇宙飛行を成し遂げたアラン・シェパード宇宙飛行士に由来する。

ニュー・シェパードはこれまでに4機が製造され、今回の飛行までに15回の無人での宇宙飛行試験を実施。初の飛行でブースターが着陸に失敗した以外はすべて成功しており、またクルー・モジュールにまつわる失敗はない。

2016年には、通常3基開くパラシュートのうち1基が故障したという想定で、意図的に2基のみで着陸させる試験に成功。同じ年には、飛行中に問題が起きたという想定で、上昇中のブースターからクルー・モジュールを緊急脱出させる試験にも成功しており、安全性の高さを実証している。

これまで試験飛行はすべて無人で行われており、米国航空宇宙局(NASA)からの委託を受けて実験機器などの貨物を運んだことはあったが、人間を乗せたことはなかった。だが、試験飛行の連続成功や緊急時を想定した試験の成功を経て、いよいよ今回、初めて人を乗せて打ち上げられることになった。

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    パラシュートを開いて降下するクルー・モジュール(写真は今年4月の試験飛行時のもの) (C) Blue Origin