米国の宇宙企業「ブルー・オリジン」は2020年10月13日、サブオービタル機「ニュー・シェパード」の打ち上げに成功した。

機体は宇宙空間に到達後、着陸にも成功。将来の月面や火星への着陸に使う新開発のセンサーの試験を含む、12個の実験が行われた。

  • ニュー・シェパード

    宇宙に到達後、着陸するニュー・シェパードのブースター (C) Blue Origin

ミッション「NS-13」とは?

ニュー・シェパードは日本時間10月13日22時35分(米中部夏時間8時35分)、西テキサスにある同社の試験施設から離昇した。機体は計画どおり飛行し、ブースターとクルー・カプセルを分離。両機は高度約105kmに到達したのち、まずブースターが着陸し、その後カプセルもパラシュートで着陸した。

ニュー・シェパードの飛行は今回が通算13回目で、成功は12回目。また、今回飛行した3号機のブースターとクルー・モジュールを使った飛行は、今回で7回連続の成功となった。

今回のミッション「NS-13」では、ブースター部分に、米国航空宇宙局(NASA)が開発した「軌道離脱・下降・着陸センサー」を搭載し、試験が行われた。これは月面の複雑な地形の場所への精密着陸を行うために開発されたもので、指定された地点に100m以内の精度で自律的に着陸することを可能としている。この技術により、将来的には、たとえばクレーターの近くの複雑な地形の地域など、アポロ計画では着陸できなかったような場所に、宇宙飛行士や無人探査機を降ろすことができるようになるという。また、火星着陸への応用も可能だとしている。

ブルー・オリジンは、NASAが進める有人月探査計画「アルテミス」で使用される、月着陸船を開発する民間企業のひとつに選定されており、今回の試験はその開発の一環であった。

同社CEOのBob Smith氏は「今日の飛行は感動的でした。ニュー・シェパードを使って月面着陸をシミュレートしたことは、NASAが進める『アルテミス計画』が、米国にエキサイティングな出来事をもたらす前兆です。我々は月面着陸に向けて新たな一歩を踏み出しました」と語っている。

このほか、カプセル部分には、宇宙で植物を自律的に育てるシステムや、小惑星や月の砂をその天体の地表に固定するためのシステム、また宇宙船の電子機器を冷却する新技術など、11個の実験ペイロードも搭載。微小重力環境を利用した実験が行われた。

今回の飛行は、2019年12月に行われたNS-12ミッション以来、約10か月ぶりとなった。また、当初打ち上げは9月に予定されていたが、天候不良や技術的な問題により延期を繰り返した。同社によると、軌道離脱・下降・着陸センサーの試験は晴れの日に行う必要があったことから、天候条件は通常より厳しいものだったとしている。

同センサーの試験は、今回を含め計2回行われる予定となっている。

  • ニュー・シェパード

    ニュー・シェパードのブースターに装着された、軌道離脱・下降・着陸センサー (C) Blue Origin

ニュー・シェパード

ブルー・オリジン(Blue Origin)は、Amazonの創業者で、ワシントン・ポスト紙のオーナーとしても知られる実業家のジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙企業である。

ニュー・シェパード(New Shepard)は同社が開発中の宇宙機で、地球のまわりを回る軌道には到達できないものの、宇宙空間(高度100km以上)には届く、「サブオービタル機」と呼ばれる種類の機体である。ブースターと呼ばれるロケットと、カプセルから構成されており、カプセルには最大6人の乗員・乗客や、実験・観測装置を載せることができる。また、ブースターとカプセルは繰り返し再使用することができ、運用コストの低減が図られている。

ニュー・シェパードは2015年に1号機が初飛行を実施。これまでに3機が建造され、今回までに13回の試験飛行を行っている。今回は3号機の7回目の飛行だった。

これまでの飛行では、まず宇宙空間に到達できるかということからはじまり、ブースターやカプセルを安全に着陸・回収できるのかという試験、機体を再使用できるかどうかという試験、そしてカプセルのパラシュートがすべて開かなかった場合でも安全に着陸できるのかという試験が行われてきた。

2016年には、ブースターが飛行中の、最も負荷がかかる段階でトラブルが起きたという想定で、カプセルを脱出させる試験にも成功。さらに2018年には、ブースターのエンジンの燃焼が終わり、ほぼ宇宙まで達したところでトラブルが起きたという想定で、カプセルを脱出させ、そこから安全に帰還することができるかを調べる試験も行われた。

ブルー・オリジンは将来的に、ニュー・シェパードに科学者や宇宙旅行者を乗せて飛行することを目指している。過去には「数年以内」といった実現目標が語られたり、「1人あたりのチケット代は20万~30万ドル(約2200万円~3300万円)になる」という話が出回ったりしたこともあったが、その後開発・試験計画の見直しもあってトーンダウンし、現在は具体的なスケジュールや金額について、詳しいことは明らかにはなっていない。

一方で、人を乗せた飛行に向けた試験を進めるのと並行して、カプセルに実験機器を搭載するサービスは提供されており、これまでNASAや大学、民間企業などが顧客となり、今回のようなさまざまな試験や実験が行われている。

  • ニュー・シェパード

    宇宙から帰還したニュー・シェパードのクルー・モジュール。将来的には人が乗り込む予定 (C) Blue Origin

参考文献

Blue Origin | New Shepard Mission NS-13 Launch Updates
Replay - New Shepard Mission NS-13 Webcast - YouTube
Blue Origin | New Shepard
Blue Originさん (@blueorigin) / Twitter