NS-16
今回のミッション「NS-16」には、創業者のジェフ・ベゾス氏のほか、同氏からの招待を受けた、弟のマーク・ベゾス(Mark Bezos)氏と米国の民間人女性ウォリー・ファンク(Wally Funk)氏、そしてオークションで搭乗権を獲得したオリバー・デーメン(Oliver Daemen)氏の計4人が参加した。
4人を乗せたニュー・シェパードは、日本時間7月20日22時12分(米中部夏時間同日8時12分)、テキサス州西部にある同社の発射場「ローンチ・サイト・ワン」から離昇した。ブースターは順調に飛行し、離昇から約1分後に音速を突破。成層圏の中を一気に駆け上がった。
離昇から約2分20秒後にはエンジンの燃焼が終了。慣性飛行に入り、やがてブースターとクルー・モジュールが分離された。
4人は微小重力状態や、窓から見える景色を楽しんだ。
クルー・モジュールは離昇から約4分後に最高高度107kmに到達し、その後パラシュートで降下。離昇から10分10秒後に無事に着陸した。ブースターも離昇から約7分30秒後に着陸している。
着陸後、ジェフ・ベゾス氏は「人生で最高の日だ!(Best day ever!)」と快哉を叫んだ。
「飛行前から期待は高かったですが、実際にはそれを大きく上回るものでした。ゼロG(無重力)の環境はとても自然に感じられ、大きな驚きでした。まるで人間は、この環境で生きるために進化してきたのではと思えるほどでした。もちろんそんなことはないでしょうが、それにしてもとても穏やかで、心地よい浮遊感を味わうことができました」(ベゾス氏)。
また、ブルー・オリジンのボブ・スミス(Bob Smith)CEOは「今日はブルー・オリジンと有人宇宙飛行にとって記念すべき日となりました。これは私たちにとって大きな一歩であり、そしてまだ始まりに過ぎません」とコメントしている。
ベゾス氏の招待を受けて搭乗したファンク氏は、1939年生まれで現在82歳。約60年前に米国の民間プロジェクトとして行われた、女性でも宇宙飛行士になれるかどうかを試験するプログラムに参加。当時のNASAの有人宇宙飛行計画「マーキュリー」の宇宙飛行士とほぼ同じ審査をクリアした13人のうちのひとりとなった。この13人は「マーキュリー13」とも呼ばれる。ただ、NASAの計画ではなく、そもそも実際に宇宙飛行を目指した計画でもなく、また当時のNASAは女性の宇宙飛行士は募集していなかったことなどから、ファンク氏ら13人には、宇宙に行く機会は与えられなかった。
ファンク氏はその後、女性として初めて米連邦航空局(FAA)の検査官や国家運輸安全委員会の航空安全調査官などを務めてきた。
82歳のファンク氏は、1998年に77歳でスペースシャトルで宇宙飛行を行ったジョン・グレン宇宙飛行士の記録を更新し、宇宙飛行の最高齢記録を樹立した。
デーマン氏は18歳の少年で、6月に行われたオークションで搭乗する権利を獲得。自己資金でサブオービタル飛行に参加した最初の一人となった。実際に資金を出したのは、資産家である彼の父親だという。
このオークションでは、もともと別の人物が2800万ドルで落札したが、「スケジュールの都合」で今回の飛行への参加を辞退したことから、代わりに次点で高値をつけたデーメン氏が参加することになった。
なお、これまで宇宙を飛行した最年少記録は、1961年に飛行したソヴィエト連邦のゲールマン・チトーフ宇宙飛行士の25歳であり、記録を更新した。
また、ジェフ・ベゾス氏とマーク・ベゾス氏は、兄弟で一緒に宇宙に行った初めての人物となった。
今回の飛行ではまた、人類初の動力飛行に成功した、ライト兄弟の「ライト・フライヤー」号の機体に使われていたキャンバス生地や、伝説的な女性飛行士アメリア・イアハートのゴーグルなどがクルー・モジュールに搭載され、宇宙を飛行した。
宇宙旅行まであと一歩
ブルー・オリジンは今年、さらに2回の有人飛行を予定。2022年にはさらに多くの有人飛行を計画中としている。
なお、この飛行に先立つこと7月11日には、同じくサブオービタル宇宙旅行の実現を目指している米国のヴァージン・ギャラクティックが、同社創業者のリチャード・ブランソン氏らを乗せ、宇宙船「スペースシップツー」の試験飛行に成功。2022年の商業運航の開始を目指し、改良型の宇宙船「スペースシップIII」の開発や試験も続けており、本格的な宇宙旅行の実現が近づきつつある。
両社は現時点で、チケットの一般販売は行っておらず、価格についても明らかにしていない。ただ、ヴァージンは以前、事前予約を受け付けており、その際には25万ドル(約2750万円)という価格で販売していた。その後、機体の改良や改修が行われたことから、今後販売が再開される際には値上がりする可能性もあるが、おおむね30万ドル前後となろう。
ブルー・オリジンについてはまったく明らかにされていないが、ヴァージンとの競争上、ほぼ同じ価格で販売するものとみられる。
いずれにしても、一般人にとっては到底手が出ない金額であり、また数分間の宇宙滞在には見合わないほど高価と感じる人のほうが多いだろう。
だが、航空機の歴史をふりかえると、初期の旅客機は数十分間の遊覧飛行で約100万円もの運賃がかかり、旅客機による海外旅行が実現した際も数百万円と、富裕層にしか手が出ないものだった。それがいまでは、十万円~数十万円と桁ひとつ少ない金額で行けるようになった。
宇宙旅行もまた、今後ヴァージンやブルー・オリジン、さらにそれらに続く他の企業が飛行回数を重ねていくことでコストダウンが進み、いつかはより気軽に宇宙に行ける時代が訪れるかもしれない。
参考文献
・Blue Origin | Blue Origin safely launches four commercial astronauts to space and back
・Blue Origin | New Shepard