国立科学博物館(科博)は、同館主催で進めてきた「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」において、丸木舟によって台湾から与那国島へ渡ることに成功した実験航海の様子を、科博内のシアター「イセ食品 THEATER36〇」にて2020年12月1日より公開を開始した。

  • 3万年前の大航海

    「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の丸木舟での航海の様子を体感できる「3万年前の大航海-ホモ・サピエンス日本上陸-」は科博内に設置されている「イセ食品 THEATER36〇」にて見ることができる (撮影協力:国立科学博物館)

THEATER36〇は、地球の100万分の1の大きさである直径12.8mで、360°全方位に映像が映し出されるのが特徴。今回製作された映像作品「3万年前の大航海-ホモ・サピエンス日本上陸-」は、3万年以上前の時代に、どうやってヒトが日本列島に海を越えてやってきたのか、という謎の解明に挑んだ取り組みの集大成ともいえるものの1つ。

  • 3万年前の大航海

    科博のTHEATER36〇入口。2020年12月ならびに2021年1月は、「3万年前の大航海-ホモ・サピエンス日本上陸-」が上映されている (撮影協力:国立科学博物館)

プロジェクトは、祖先たちを実際に体感して、冒険しようという取り組みで、クラウドファンディングによる資金調達などオープンサイエンスとしての試みも行われるなど、意欲的な挑戦として行われてきた。2016年よりスタートしたが、秒速1-2mという世界最大の海流である黒潮を越えなければ台湾から沖縄の島にたどり着けないという課題を解決する必要があり、実際に船を作り、航海に出ては失敗し、改善方法を模索、ということを繰り返す中、ついに2019年7月に丸木舟で台湾から与那国島に到達することに成功した。今回の映像は、この成功した様子を6分強の短編としてまとめたものとなる。

  • 3万年前の大航海
  • 3万年前の大航海
  • 人類が日本にわたってきたルートは複数あるが、今回の台湾から与那国島への航海もその1つと考えられている。しかし、実際にそれを実現するためには、黒潮を越えていく必要があり、プロジェクトでも失敗が続いた (撮影協力:国立科学博物館)

同プロジェクトの代表で、企画監修者でもある東京大学総合研究博物館の海部陽介 教授(2019年7月当時は国立科学博物館人類研究部人類史研究グループ長)は、「漕ぎ手しか見えない景色があって、それをどうしても伝えたいと思っていた。そこで丸木舟の先端に3D VRカメラを設置して、今回の作品を作るにいたった。全周に映像が出るので、それを楽しんでもらいたい。つい声がすると、そっちを向いてしまうが、声がした方向以外でも動きがある。この作品を100%楽しんでもらうためには、注意を払って全周を見てもらいたい」と今回の映像作品に対する想いと見どころを説明する。また、ナレーションは満島ひかり氏が担当しているのだが、同氏に対し「最後に作品が満足にいく出来に仕上がったのは、彼女の助力のおかげ」と、ナレーションとして参加し、色々と意見を出して工夫重ねることで、作品の質を向上させていってくれたことに賛辞を送ったほか、「なぜ、(3万年前の人類が)海を渡ったのかは分からないが、それを今回の映像を通して考えてもらいたい。研究者として、考えるための素材を用意したので、後はみんなでその理由を考えてもらえれば」と、見てくれた人たちも、一緒になって楽しんでもらえたら、とした。

  • 3万年前の大航海

    台湾から与那国島までの距離は約206kmだが、実際の航海の距離はさらに長いものとなる (撮影協力:国立科学博物館)

なお、2020年12月7日現在、国立科学博物館に入館するためには事前予約が必要。また、シアター36○も1回あたりの定員を従来の60名から20名に削減しているほか、上映作品も従来の2本同時から1本へと変更するなど、新型コロナウイルス感染症対策を行っている。

  • 3万年前の大航海

    今回は実験ということで5人乗りの丸木舟一艘のみで実施したが、実際に海を渡った後に、現地でコミュニティを形成し、維持していくためには2艘(男5人、女5人)は最低必要であり、船団を組んで海を渡ったことが考えられるという。ちなみに、台湾を出発して、与那国島に到着するまでに45時間かかったという (撮影協力:国立科学博物館)

シアター36○の上映スケジュールは現時点で2021年3月まで決まっており、今回の「3万年前の大航海-ホモ・サピエンス日本上陸-」は2020年12月ならびに2021年1月に上映される。2021年4月以降のスケジュールはまだ決まっていないが、シアター36○の映像作品は今回の作品を併せて7本あるため、上映順を検討していきたいとしている。