SK HynixがIntelのNANDの事業を買収することが正式に発表された。これによりSK Hynixは、エンタープライズSSD市場における補完的な恩恵を受け、NAND業界のシェアで2位に浮上することとなり、その結果、NAND業界の再編を引き起こすとする分析を台湾の半導体市場動向調査会社TrendForceが公開した。

TrendForceの分析によると、2020年第2四半期のNAND市場シェアはSK Hynixが11.7%とIntelが11.5%を占めており、それぞれの順位は4位と6位となっていた。両社の売り上げを単純に合算すると、同2位のキオクシア17.2%を上回り、Samsung Electronicsに次ぐ単独2位の座を獲得することとなる。

  • NANDサプライヤの変遷

    大手NANDサプライヤの変遷。最下段のYMTCは中国の新興NANDメーカーでまだ市場シェアを議論するほどの生産規模は有していない (出所:TrendForce)

プロセスが異なるSK HynixとIntelのNAND

製品の競争力としては、2019年のSK HynixのNAND総売上高の60%以上をモバイル向けが占めるなど、これまではeMCPおよびeMMCを含むモバイル分野で存在感を発揮してきた。一方のIntelは、SK Hynixとは対照的にエンタープライズSSD市場で強みを発揮してきており、Samsungと互角に戦ってきただけでなく、中国市場では50%以上のシェアを獲得するなど、エンタープライズSSDでメモリ事業の利益を確保してきたといえる。

また、生産能力に関しては、SK HynixはNANDを韓国内の自社工場で製造しているがIntelは中国大連の自社工場で生産してきた。加えて、すべてのNANDサプライヤの中で、IntelはQLCアーキテクチャの採用の促進に注力してきており、QLC SSDについては2020年末までにNANDのビット出荷数量の30%以上を占めるまでに拡大されるものと予想されている。しかし、プロセス技術としてIntelは、フローティングゲート方式の活用を主張してきた一方で、SK HynixをはじめとするほかのNANDサプライヤはチャージトラップ方式を採用している。つまり、IntelとSK Hynixのエッチングプロセスには大きな違いがあり、例えSK HynixがIntel大連工場を購入したとしても、すぐにSK Hynix製品の製造に移れるわけではない。

3D XPointを手放さなかったIntel

今回の買収には、Intelの3D NAND技術とその生産能力が対象で、Intelが近年注力してきた3D XPointメモリ技術は含まれず、今後もIntelが提供していくこととなる。

相変化メモリであるIntelの3D XPointメモリを同社は「Optane」との名称で提供しているが、このメモリだけは手元に残した背景には、現在、同社が最重視しているデータセンターのサーバ向けCPU「Xeon」とともに販売することを狙っているためだ。DRAMとSSDの間に入るストレージクラスメモリとして、データセンターのコンピューターシステムのメモリ構造の最適化を図ることで差別化を図ることができるOptaneは、Intelにとって、戦略商品という位置づけであると考えられる。

キオクシアと組んでSamsung越えへ

TrendForceによると、2020年第2四半期のNANDサプライヤの市場シェアは以下のとおりである(カッコ内は、英Omdiaによる2019年通年の市場シェア)。

  • Samsung Electronics:31.4%(35.9%)
  • (SK Hynix+Intel):23.2%(19.4%)
  • キオクシア:17.2%(19.0%)
  • Western Digital:15.5%(13.8%)
  • SK Hynix:11.7%(9.9%)
  • Micron Technology:11.5%(11.1%)
  • Intel:11.5%(9.5%)
  • その他:1.2%(0.8%)

今回のIntel NAND事業の買収によりSK Hynixは単純計算でシェアを2位にまで上げることになる。また、SK Hynixは、キオクシアが上場すれば、その株式の一部を手に入れることとなり、キオクシアのパートナーとなる。そうなれば、キオクシアのパートナーであるWestern Digitalも含めれば、このSK Hynix-Intel-キオクシア-Western Digitalの日米韓連合の市場シェアは単純合算で5割を超え、業界トップのSamsungを抜いてトップとなるが、実際にそんなことが起きるのだろうか?。

キオクシアは、諸々の事情で10月初めに予定していた上場を2021年に延期した模様だが、いずれ上場すればSK Hynixはキオクシアの14.96%の株主になる契約となっている(キオクシアの3番手の株主の位置)。SK Hynixは、同社が4000億円ほど出資した日米韓連合によるキオクシア買収後、10年間(2028年まで)キオクシアの議決権の15%以下しか保有できない契約となっており、経済産業省の意向もあり、あと8年ほどは、これ以上の株式の買い増しができないようになっている。しかし、これを別な言い方で表現すれば、8年後には巨大化したSK Hynixがキオクシアを買収することもありうるということだ、また、現行の契約も両者が同意すれば-経済産業省は反対するだろうが-8年も待たずに変更は可能であろう。ただし、Western Digitalは、SK Hynixと東芝メモリ買収で競って敗れたこともあり、この連合には反対すると思われる。一方、キオクシアは、旧東芝時代からSK Hynixと次世代メモリ(SK Hynix本社研究センタ拠点)やナノインプリントリソグラフィ(キオクシア拠点)の共同研究を行っている協業パートナーでもある。

韓国SKグループが進める半導体製造垂直統合エコシステムの構築

今回の買収はSK Hynixの一存で決めたわけではなく、SK財閥の司令塔ともいえるSKグループの持ち株会社であるSK Holdingの国際投資部門の判断によるものだと思われる。

というのもSKグループは現在、半導体およびIT素材の国産化をグループ全体で積極的に取り組むと同時に、最近、海外半導体および関連素材メーカーのM&Aに熱心で、ここ数年、SK SiltronによるDuPontのSiCウェハ事業買収、SK Materialsによる昭和電工との半導体製造用特殊ガス合弁企業の設立などを通して、半導体関連事業の川上から川下に至る垂直統合のエコシステム構築を着実に進めるなど、半導体をグループの屋台骨にしようとしている節が見えるためだ。

SK HynixはもともHyundai(現代)グループの半導体メーカーHyundai Electronics(のちに短縮してHynix)だったし、シリコンウェハメーカーのSK SiltronももとはLGグループのLG Siltronだったわけで、このようにSKグループはSamsungを除く他グループの半導体関連事業を次々と買収して今日に至っており、今後もこの方針に変更はないと思われる。将来、SKグループの総力を挙げたSK Hynixによるキオクシア買収は決して夢物語(経産省にとっては悪夢になるかもしれないが)とは言い切れないだろう。