中国の半導体受託生産(ファウンドリ)最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は同国の政府系ファンドから22億5000万ドルの出資を取り付けたことを同社が香港証券取引所へ提出した報告書の中で明らかにした。

半導体産業に特化した政府系ファンド、国家集成電路産業投資基金第2期より15億ドル、上海集成電路産業投資基金第2期より7.5億ドルがそれぞれ出資されるとのことで、これによりSMICの登録資本金は35億ドルから65億ドルに拡大されることとなるほか、SMICの関連会社で14nmプロセスの製造を担う「中芯南方集成電路製造有限公司(Semiconductor Manufacturing South China:SMSC)」のSMIC保有比率は50.1%から38.5%に低下するという。

今回得た資金でSMICはSMSCの14nmプロセス生産能力を現在の月産6000枚から3万5000枚に引き上げる計画としている。

同じように国策半導体企業集団である清華紫光集団傘下の半導体ファブレスIC設計会社UNISOC Communicationsも600億円規模の資金を獲得しており、今後も同国の政府系ファンドは同国政府の半導体自給自足の方針に従いファブレス、ファウンドリ、IDM、半導体製造装置・材料メーカーなど半導体サプライチェーン全体に巨額の資金提供をしていく模様である。

SMICの2020年第1四半期の売上高は前年同期比35%増と好調

SMICの2020年第1四半期(1~3月期)の売上高は前年同期比35%増の9億500万ドルと、四半期ベースで過去最高となった。純利益も同約5倍の6400万ドルと好調で、地域別売上高は中国国内向けが前年同期の54%から62%へと増加した一方、米国向けは前年同期の32%から26%に低下した。米中貿易戦争の中でも米国向けの出荷が売り上げの1/4以上を占めていることは注目される。

同社は、生産能力をさらに伸ばすため、2020年通期の設備投資額を前年比で3割増の43億ドルにすると発表している。しかし、現在、日本や米国といった海外の半導体製造装置メーカーのエンジニアは中国に入国できない状況にあり、そうしたメーカーが手掛ける新規製造装置の設置や立ち上げが遅れてしまっていることから、増産計画にも遅れが生じている。日本の半導体製造装置メーカーの業界団体は、日本人技術者の海外渡航制限緩和の嘆願書を日本政府関係当局に4月に提出しているが、5月下旬に入っても事態はほとんど進展していない。

米国商務省の通達がSMICにも影響

米国商務省は、米国企業がHuaweiと取引することを事実上禁止してきたが、5月15日(米国東海岸時間)、さらに規制を強化して、海外(米国以外)の半導体企業が、米国製半導体製造装置を用いて製造したHuaweiおよびHiSiliconをはじめとする関連会社の設計仕様に基づく半導体デバイスをHuaweiに出荷することも事実上禁止する通達を発表した。

この禁止令は、Huaweiの5G対応フラッグシップスマートフォン(スマホ)向けに最先端の5nmプロセスを用いてKirin1020チップの製造を受託しているTSMCとHuaweiの関係を断ち切ることを狙った措置と見られているが、実は、Huaweiは、ミドルレンジのスマホ向けチップ「Kirin710」をSMICに製造委託しており、そちらへの影響も考えられている。Kirin710はこれまで、TSMCの14nmプロセスで製造されていたが、米国政府のTSMCへの締め付けが予想されたため、2020年に入って中国内のSMICに委託先を切り替えた。現在のSMICの先端プロセスは14nmであるため、それよりも微細なプロセスを用いたアプリケーションプロセッサはTSMCに依頼せざるを得ない状況となっている。もちろん、Samsung Electronicsのファウンドリ事業部門に依頼するという選択肢もあったが、スマホでライバル関係にあるので依頼しなかったようだ。

台湾の半導体市場動向調査会社TrendForceは5月18日付けでコメントを発表し、「中国のSMICでさえ、米国商務省の新たな規制によりHiSilicon(Huaweiの半導体設計子会社)への製品の出荷が制限される事になる」と指摘し、今後、TSMCやSMICの業績に影響が出ることを示唆した。Huaweiについては、「今回の米国の規制を事前に予測して半導体在庫を大きく積みましてきていたので短期間であればスマホの生産を維持するのに支障をきたすことはないだろう。ただし、Huaweiの2つの主要な提携ファウンドリであるTSMCとSMICへチップの生産委託ができなくなると、Huaweiに中長期的に影響が出るのは必死である」と述べている。

SMICは、現在7nmや5nmといった最先端デバイスを製造できず、微細化のペースは先行するTSMCなどに大きく技術的な差を付けられているといえるが、米中貿易戦争がさらに激化することを踏まえれば、中国政府としても中国内でも最先端プロセスでの半導体製造が可能な体制を構築したいだろう。SMICも、そうした意をくんでASMLにEUVリソグラフィを注文しているものの、米国政府の介入で出荷差し止めとなっている。

今回の米国商務省の通達では、ファウンドリはHuaweiからの製造受託チップを5月15日までにラインに投入済みであれば、その後120日間は製造の続行が許されている。しかし、それ以降も製造続行すれば、JHICCのように米国製半導体製造装置の輸出禁止などの制裁をうける可能性もあるので、SMICは窮地に立たされることとなる。中国政府は、半導体製造装置の国産化にも政府系ファンドを中心に莫大な補助金を出して国家主導で半導体デバイスだけではなく製造装置の国産化も推進しようとしている。