新潟大学は、スギ花粉症の原因となるスギ花粉の飛散について、スギの遺伝子中に鍵となる雄性不稔遺伝子(MALE STELARITY 1 (MS1))を同定した。この遺伝子をある状態で持っているスギは花粉を飛散させないという。また、DNA分析によって、調査対象のスギがこの遺伝子を持っているかどうかを100%かつ迅速に識別する方法を開発した。

本研究の成果により、どのスギが花粉を飛散させるのかという探索を短期間で実施することが可能となったという。

同成果は、新潟大学農学部の森口喜成 准教授、森林総合研究所 樹木分子遺伝研究領域の上野真義チーム長、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の笠原雅弘 准教授、基礎生物学研究所 生物機能解析センターの重信秀治 教授らの共同研究グループによるもの。「第131回日本森林学会学術大会」にて発表された。

  • 花粉を飛ばす正常なスギ(左)と無花粉スギ(右)の雄花の断面 (出所:基礎生物学研究所)

    花粉を飛ばす正常なスギ(左)と無花粉スギ(右)の雄花の断面 (出所:基礎生物学研究所)

花粉症は、いまや国民病とも呼ばれるほど発症者の多い病気であり、全国民の2割が花粉症を発症しているとも言われる。なかでもスギ花粉は花粉症患者の7割を超えるというデータもあり、その根本的な対策が叫ばれてきた。

スギ花粉症を引き起こすスギ林の面積は、全国の森林のうち18%, 国土のうち12%を占めている。このことから林業分野におけるスギ花粉症の対策の基本は、この発生源を減らすことである。そのため、無花粉スギとも呼ばれる花粉を飛散させない雄性不稔スギをいかに選抜するかという研究が精力的に行われてきた。

これまでにスギ花粉を飛散しない性質が、雄性不稔遺伝子と呼ばれる遺伝子の有無で決まることがわかっている。仮に両親ともこの雄性不稔遺伝子aを持っている場合、子は aaの雄性不稔遺伝子をもつこととなり、花粉を飛散しない。

一方で片方の親が雄性不稔遺伝子aを、もう片方の親が花粉を飛散する遺伝子Aを持つ場合、子はAaとなり、花粉を飛散する。このように、雄性不稔遺伝子を持っていたとしても、それだけでは花粉を飛散するかどうかは不確であり、花粉を飛散するスギかどうかを100%分析できる方法は確立されていなかった。

そこで研究グループらは、まず雄性不稔遺伝子MS1を持つ交配家系を用いて、花粉を含む雄花に関する遺伝子配列を網羅的に収集した。また、雄花の中でも花粉を飛散するスギと飛散しないスギのあいだで遺伝子の塩基配列の違いを解析した。

その結果、雄性不稔遺伝子MS1を同定に成功し、この遺伝子の機能に異常が生じた変異型対立遺伝子をホモ接合型の状態で持つスギは、100%の確立で花粉を飛散しないことを見出した。また、花粉を飛散しない雄性不稔を示す変異型対立遺伝子が、2種類存在することも明らかにした(ms1-1 および ms1-2)。

本研究により、遺伝的変異をマーカーにDNA分析を行うことで、成長や材質に優れる精英樹や在来品種が花粉を飛散するか否か、100%の精度で短期間中に調査することが可能となった。

研究グループらは、今後開発した手法を用いて、全国のスギから雄性不稔遺伝子を持つ育種素材の探索を進めるとしており、同研究の成果が無花粉スギの普及拡大に繋がるとコメントしている。