米テキサス州にある宇宙企業「スペースX」の施設で2019年11月21日、巨大宇宙船「スターシップ」の試作機が、試験中にタンクが破裂する事故が起きた。

同社によるとけが人はなかったという。また、事故は深刻なものではなく、今後は宇宙飛行ができる試験機の開発に注力することで、開発スケジュールへの影響も小さいとしている。

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    スターシップの試作機「スターシップMK1」。今回の事故では、前部(上部)にある液体酸素タンク部分が破裂、部品が吹き飛んだ (C) SpaceX

スターシップ(Starship)は、スペースXが開発中の宇宙船で、直径9m、全長50mという巨体をもつ。これを、同じく開発中の巨大ロケット「スーパー・ヘヴィ」で打ち上げ、地球低軌道に100t以上の打ち上げ能力を実現するとともに、月や火星に一度に100人の人間を送り込むことを目指している。

機体には構造にステンレスを使うことで、高い耐久性や耐熱性ももたせる。さらに、高い効率やメンテナンス性をもつ新開発のロケット・エンジン「ラプター」を装備。その結果、機体を繰り返し何度も再使用でき、打ち上げコストは現在の大型ロケットの100分の1にもなり、同社では月や火星への移住のほか、さまざまな人工衛星の打ち上げや、宇宙旅行、さらに極超音速旅客機としても活用することを見込んでいる。

スターシップの開発や試験は、フロリダ州と、テキサス州の南端、メキシコとの国境沿いのメキシコ湾に面した場所にあるボカ・チカと呼ばれる地域にある同社施設の主に2か所で行われている。

同社はまず、まず「スターホッパー(Starhopper)」と呼ばれる、基礎的な技術を実証するための試作機を開発。今年7月から8月にかけて、ボカ・チカにおいて名前どおり"ホップ"するように飛行する試験を行った。

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    スターシップの最初の試作機スターホッパー。今年7月から8月にかけて、ボカ・チカにおいて名前どおり"ホップ"するように飛行する試験を行った (C) SpaceX

そして、それに続く試作機として、「スターシップMK1」を開発。MK1は直径9m、全長50mと、実機のスターシップとほぼ同じ形状、寸法をしているが、高度数十kmまで飛行し、着陸する技術を実証するための試作機であり、宇宙に行ったり大気圏に再突入することは念頭になく、機体表面は凹凸だらけで、ロケット・エンジンも3基しか装備していない。

また、フロリダ州にある同社施設では、MK1に似た、MK2の開発も行っている。MK2は、機体の寸法や目的などはMK1と同じであるものの、設計に若干の違いがあり、社内を2チームに分けて競作させることで、開発の促進などを目指していた。

同社を率いるイーロン・マスクCEOは今年9月、「今後1~2か月のうちに、MK1を高度20kmまで飛ばす試験飛行を実施する」と表明し、飛行に向けた試験などが続いていた。

今回の事故は、現地時間11月20日の夕方(日本時間21日早朝)に発生し、機体の上部(前部)にある液体酸素タンクあたりが破裂。天辺にあったバルクヘッド(隔壁)が大きく吹き飛んだ。さらに、機体の下半分にある液化メタンのタンクも破裂したように見える。その様子は、施設の外でMK1を見学していた宇宙ファンらによって捉えられ、SNSなどを通じて即座に世界中に知れ渡った。

なお、MK1は先端にカナード翼がついたノーズ・コーンをもつが、今回の試験時にはノーズ・コーンごと取り外されていた。また、ラプター・エンジンも装備されていなかったように見え、これらの部品は損傷を免れた可能性が高い。

その後、スペースXは声明を発表し、このときMK1は、タンクに極低温の液体を充填し、高い圧力に耐えられるかどうかの試験を行っていたという。充填していた液体は不明だが、酸化剤である液体酸素か、あるいは試験用に液体窒素を充填していたものと考えられる。とくに事故発生時は、最大限に加圧した状態にあり、「このような事故が発生することは、まったく想定していなかったわけではない」という。

また、「事故による負傷者はなく、開発計画やスケジュールが大きく後退することもない」としている。

さらにマスク氏は、ツイッター上でフォロワーからの質問に答える形で「MK1は、スターシップを製造するための技術を検証する先駆者として機能しました。しかし、実際に飛行する機体とは、設計はまったく異なります。すでにMK1は飛ばさないことを決めており、開発チームは地球低軌道へ飛行できるよう設計した『MK3』の製造に注力しています」とコメントしている。

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    在りし日のスターシップMK1。今回の事故時には、先端のノーズ・コーン部分は取り外されており、エンジンも装備していなかった可能性が高い (C) SpaceX

今年9月の時点で、マスク氏は、MK1とMK2の完成後、その試験や実績を踏まえ、より軽く、低コストなMK3を開発。MK3は3か月ほどで完成し、試験飛行を始める予定だとしていた。そしてその後、よりスターシップの実機に近い、地球周回軌道へ乗ることができる試験機「MK4」と「MK5」を開発。2020年の中ごろにも軌道への試験飛行を行う予定としていた。

しかし今回の事故により、MK1とMK2で行う予定だった試験はMK2のみで行い、またMK3の目的や製造が早められることになったようである。

今回の事故まで、スターシップの開発は比較的順調に進んでいたことが、関係者の発言などから明らかになっている。10月末には、同社のグウィン・ショットウェル社長が「この1年以内にスターシップを地球周回軌道へ飛ばすとともに、2022年までに月面着陸を、そして2024年までに月面基地のために必要な資源を運びたいと考えている」と発言。また11月19日には、スターシップでの月飛行を予約している実業家の前澤友作氏が、マスク氏との会話を受けて、「スターシップの開発が想定以上に順調とのこと」とツイートしている。

こうしたことから、スターシップの開発は当初のスケジュールより若干早く進んでいた可能性が高く、MK3の開発を前倒しすることと相まって、今回の事故が開発に与える影響は少ないという、スペースXやマスク氏の発言には、一定の説得力があるものとみられる。ただ、実際に開発スケジュールなどがどうなるかは、これから注意深く見守る必要があるだろう。

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    月へ飛行するスターシップの想像図 (C) SpaceX

出典

Elon Muskさんのツイート「@Erdayastronaut @SpaceX Absolutely, but to move to MK3 design. This had some value as a manufacturing pathfinder, but flight design is quite different.」 / Twitter
SpaceX Starship MK1 fails during cryogenic loading test - NASASpaceFlight.com
Live! 24/7 Lab Cam SpaceX Boca Chica Starship Construction and Launch Facility - YouTube
Yusaku Maezawa (MZ) 前澤友作さんのツイート: 「久しぶりにイーロン @elonmusk とご飯。 @SpaceX の月行きロケットStarshipの開発が想定以上に順調とのこと。さあそろそろ同乗者を誘わないと。https://t.co/rgPMzC6OdT」 / Twitter

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info