オムロンは11月29日、AIやIoT、ロボティクスでものづくり現場に新たなイノベーションを起こす同社の「i-Automation!」を進化させるための技術戦略説明会を開催。併せて、同社が目指す制御とAIの融合を実現していくうえで重要となるパートナーとして、AIベンチャーのエイシングと本格的な提携を結んだことを明らかにした。

  • 福井信二氏と出澤純一氏

    握手を交わすオムロン執行役員 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部長の福井信二氏(左)とエイシングCEOの出澤純一氏(右)

オムロンの技術戦略は、同社のコア技術であるセンシングとコントロールに考える力を足すという「センシング & コントロール + Think」という考え方のもとで進められている。また、それは同社が成長のために採用してきたSINIC理論のもと、科学と技術と社会の関係性を踏まえ、社会課題を科学技術でどのように解決するか、という視点から、ものづくりの現場での社会情勢の変化などによって生じる課題への対応、という目標に応じた取り組みとも結びついたものとなっている。

  • 「センシング & コントロール + Think」
  • SINIC理論
  • オムロンが掲げる「センシング & コントロール + Think」および「SINIC理論」の概要

そんな同社の技術面における最大のポイントはILOR+S(Input、Logic、Output、Robot、Safety)のすべてを自社で開発しているという点。それぞれの技術を有し、すり合わせを行っていくことで、イノベーティブなものづくりの実現を目指してきた。

  • オムロンの技術アーキテクチャ

    ILOR+Sを中心に、さまざまな制御技術を開発。そしてその発展系として、「革新的アプリケーション」の創出を目指している

ものづくりの現場課題をAIで解決することを目指す

現在、日本のものづくり産業、特に工場で何が起こっているかといえば、一言で表せば人手不足ということになる。海外から労働者を、という話もあるが、単に人手があれば良いわけではなく、相応の技術力や手際の良さ、長年の感、といったものが必要となり、それらを身に着けるためには相応のコストと時間を要することとなる。産業機器(FA機器)の保全にしても、熟練者であれば、稼働状況を目で見て、耳で聴いて、そして最後は振動の状態を確認して、あとどれくらいでどの部品の交換が必要か、といったことを判断できるが、そうした熟練者が次々と定年による退職を中心に、現場から離れていっており、以前と同じようなノウハウを前提とした保全管理が難しくなってきているという。

そうした工場での課題解決に向け、オムロンも10月にAI搭載コントローラの発売を開始し、AIによる予知保全を可能としたほか、対応したライブラリも3種類用意。今後もライブラリの種類は増加させていく計画であり、さまざまな産業での予知保全の実現を支援していくとする。

  • オムロンのAI予知保全ライブラリ

    オムロン単体で開発したAIを活用した予知保全に向けたライブラリの提供は10月より開始

なぜオムロンはエイシングと提携したのか

今回のエイシングとの提携は、こうした工場でのAI活用をさらに一歩進めることを目指して行われたものとなる。

オムロンでは、これを「オープンイノベーションによる超現場型AI技術実現」と表現。生産ラインで生じるさまざまなイベントをゼロにする「ラインイベントゼロ」の実現を目指すことで、待機時間の減少や歩留まり向上による生産性向上や、トータルでの省エネ化、廃棄ロスの低減などを進めていくとする。

  • ラインイベントゼロの概要
  • ラインイベントゼロの概要
  • ラインイベントゼロの概要と、それを実現するための必須項目

オムロンの執行役員でインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部長の福井信二氏は、「センシングを行い、そこから収集されるデータを溜めて、それを分析して、その結果を最終的に制御にフィードバックする。制御とAIが融合することで、機械の変動を自動的にコントローラが把握して、機械が自動で最適な運転を実現する。この実現には制御に、考える、という側面を実現するためのAIが入ってくる必要がある」とAIの重要性を強調する。

実際、両社はすでに約1年にわたって、リチウムイオン2次電池の素材を巻き付けていくFA機器をベースとした実証実験を行ってきたという。

同装置では、素材がリールに巻き付いており、それをテープ状に引っ張り、電池に巻き付けることで、2次電池を作ることができる。リールを一定の速度で引っ張り、回転させている状態であれば、不良にはならないが、リールを交換した際には、リールの位置を把握するセンサが125μ秒に1回、1秒間になおせば8000回のセンシングを実施。フィードバックを行うことで、10秒で安定動作に到達していた。

この間、1秒間に2mほどテープは引っ張られ続けており、10秒だと約20mほどの材料が不良と判定され、廃棄さ れていた。これをエイシングが開発したAI技術「デーィプバイナリツリー(DBT)」を活用し、現場で毎回AIでの測定値を制御にフィードバックできる環境を構築。これにより、ミリ秒単位での将来予測が可能となり、安定稼働までの時間は3秒へと短縮することに成功したという。

  • 研究の概要
  • 研究の概要
  • オムロンとエイシングが共同で行なってきた研究の概要。蛇行制御機構が1秒間に8000回のセンシングをリールから出てくるテープ状の素材に対し実行し、その位置を把握、ぶれないように補正を行なっていくのだが、従来は補正が完了し、ぶれないようになるまで10秒ほどかかっていた。これをエイシングのAIを活用することで3秒にまで縮めることができた。その結果、7秒分の素材(秒速2mで巻き取られていくため、14m分)が不良判定にならずに済むようになった

「センシングの状況に併せて演算を多内、数十ミリ秒先の状態を予測できる。ディープラーニングでは間に合わず、DBTだからこそできた。エイシングとの共同研究により、ようやくここまでこれら。今後は実際にコントローラに搭載するべく、性能試験を行っていく」(同)といよいよ本格的な産業機器におけるエッジAIの実演に向けた取り組みを、今後、両社で強力に推進していく予定だとする。