半導体ファウンドリはどのような応用分野の半導体チップ製造に対する注文が多いのだろうか。この種の情報は、今後の半導体応用分野の成長を占う先行指標になるだろう。米IC Insightsが先日公表した2018年の4大専業ファウンドリの製品分野別売上高予測によると、業界全体では、通信向けの売上高が52%と過半を占め、コンピューティング向けが19%、コンシューマ向けが13%、その他16%と予想されている(表1)。

通信向けが2位のコンピューティング向けに比べて3倍近い割合を占めている背景には、スマートフォンはじめモバイル製品向けの受注が圧倒的に多いことをうかがわせる。しかし、前年比成長率では、コンピューティング向けが41.5%増に対して、通信向けはわずかに1.5%増、コンシューマ用は0.7%増にとどまる見込みである。構成比率では、コンピューティング向けが前年比5ポイント上昇するのに対して、通信用が3ポイント減少する見込みである。

仮想通貨向け需要が急降下でTSMCが業績を下方修正

コンピューティング用が急成長する背景には、TSMCに仮想通貨マイニング(採掘)用のASICチップの製造委託が2018年前半に殺到した一時的な現象によるとIC Insightsは説明している。TSMCに限ればコンピューティング分野が87%も急増している。それにしても、通貨マイニング(採掘)でライバルに差をつけて利益を得るためには、世界最高速のコンピューティング・マシンが必要であり、既存のMPUやGPUを使っていたのでは採掘競争に勝てないという事情が背後にあるようだ。

最先端プロセスを使った専用チップの需要が昨年後半から急に出てきたのは、今まで予想だにしなかった先端半導体の新市場の出現として業界関係者は驚きと喜びをもって受け止めた。

しかし、TSMCは、最近、仮想通貨の価格が下落しているため、2018年下半期にはこの分野からの収益の減少が見込まれるとしていたが、それがついに現実のものとなってきた。

同社の魏哲家・総裁兼副董事長は第3四半期の業績発表の記者会見(10月18日)で「2018年通期の売上高成長率を前年比6.5%(米ドル基準)に下方修正する」ことを明らかにした。その主因は、「仮想通貨マイニング(採掘)用半導体需要の急激な減速による」という。下半期にAppleやHuawei、Qualcomm などの高級スマートフォン向けプロセッサ需要が最先端である7nm製品の出荷額を押し上げたとしても、マイニング(採掘)向けIC需要の伸び悩みにより目標は達成できないという。

TSMCは、今年の年初には前年比15~10%成長を予測し、4月にはぎりぎり10%、7月には10%は無理で9~7%程度と徐々に目標値を下げてきており、ついに9~7%も無理な状況に至った。ちなみに、表1のデータから計算されるIC Insightsの予測(9月時点)は8%となっていた。

TSMCが去る18日に発表した直近(2018年7~9月期)の製品構成比率は、通信向けが56%、コンピューティング向けが13%、コンシューマーエレクトロニクス向けが7%となっている。IC InsightsによるTSMCの通年予測(表1)に比べて、コンピューティング向けが4ポイント低くなっている。

TSMCは、不安定な仮想通貨向け売り上げを中長期計画に計上しないことをすでに明らかにしている。IC Insightsによると、TSMCは、むしろ今後、AI/IoT向けが2022年にむけて年平均成長率20%以上で増加していくことに期待をかけているという。今後5年間に、データセンターでAIやIoT向けにビッグデータを高速処理できる新たなサーバの需要が急増するとともに、車載向の成長にも期待している。

  • 専業ファウンドリ・トップ4社の製品分野別売上高

    表1 専業ファウンドリ・トップ4社の2017年(上段)および2018年(下段)の製品分野別売上高(百万ドル)および売上高比率(%) (出所:IC Insights)

コンピュータ向け比重が著しく大きいGF

企業別では、TSMCが売上高で2位のGF以下を5倍以上の大差をつけてトップを独走している。中国のファウンドリ首位に位置するSMICの売上高の10倍以上である。先端の7nm製品の売上比率は、2018年は通年で10%、2019年は倍増する見込みである。先端プロセスの主な顧客は、Apple、AMD、Qualcomm、NVIDIA、Xilinxなどである。

2位のGFだけが、ほかの3社と異なりコンピューティング向けの比重が44%(2018年)~45%(2017年)と極端に大きいが、これは、元の親会社であり、ベストパートナーのAMDからのCPUやGPUの製造委託がGFに集中しているためであろう。しかし、AMDは、今年7月に先端7nm製品の製造委託先を、当初予定していたGFからTSMCに変更したので、今後、TSMCのコンピューティング向けの売上比率が大きく増加することになろう。AMDは、GFが7nm量産プロセスを計画通り準備できそうにはないという内部情報をGFの開発無期延期(事実上の撤退)発表前につかんで製造委託先を急遽変更したようだ。

UMCとSMICはエッジ通信とコンシューマ向け

3位および4位のUMCやSMICは、28nmかそれより前の世代のプロセスが主体のため、緩いデザインルールのコンシューマ向けの比率が上位2社に比べてはるかに高い。微細化による高速動作が売り物のコンピュータ向けの割合は当然少ないが、通信向けが多いのは、IoTのエッジ向けの緩いルールの多彩な半導体チップの需要増加によるものと思われる。