地球人として生まれたからには、誰もが一度は考えるであろう、「この宇宙のどこかに、もうひとつの地球のような惑星があるのだろうか」という疑問。その問いに答えるきっかけを生み出すかもしれない衛星が打ち上げられた。

米国の宇宙企業スペースXは2018年4月19日(日本時間)、系外惑星探査衛星「TESS」(テス)を搭載した、ファルコン9ロケットの打ち上げに成功した。TESSは米国航空宇宙局(NASA)とマサチューセッツ工科大学(MIT)などが開発した宇宙望遠鏡で、太陽系外にある惑星の発見に挑む。観測データの分析や、他の望遠鏡などとの協力によって、生命が生きられる環境をもつ系外惑星――「第二の地球」も発見できるかもしれない。

  • TESSの想像図

    TESSの想像図 (C) NASA GSFC

TESSを搭載したファルコン9は、日本時間19日7時51分(米東部夏時間18日18時51分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル空軍ステーションから離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約50分後にTESSを分離。所定の軌道に投入した。

TESSはその後、地上との通信確立や太陽電池パドルの展開にも成功。このあと衛星は、自身のエンジンを噴射して徐々に軌道を変え、やがて月に到達。そして月の重力を使ってさらに軌道を変え、観測を行うための特殊な軌道に乗る。

そして約60日間の試験期間を経て、本格的な観測を開始。観測期間は約2年が予定されている。

  • TESSを載せたファルコン9ロケットの打ち上げ

    TESSを載せたファルコン9ロケットの打ち上げ (C) NASA

系外惑星を探す方法とは

TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite)は、NASAとMITが開発した、太陽系外にある惑星(系外惑星)を探査する人工衛星である。

この宇宙には無数の恒星があり、かねてよりその中には惑星をもっているもの、あるいはもしかしたらそれが地球のような惑星である可能性もあると考えられてきた。系外惑星は地球から遠く離れているため、探査はおろか発見することすら難しかったが、1995年に初めて発見されたのを皮切りに、探査技術の発展もあって、これまでに数多くの系外惑星が発見されている。

系外惑星を見つけるにはいくつかの方法があるが、TESSはその中の「トランジット法」という方法を使う。これは恒星のまわりを回る惑星が、観測者から見て恒星の前を横切った際に、恒星の明るさがわずかに暗くなることを利用して発見するというもの。この方法では、惑星の大きさや質量、密度などを推定することもでき、また惑星の大気によって変化する恒星の光を分析することで、その大気の組成などもわかる。

  • トランジット法の仕組みを示した図

    トランジット法の仕組みを示した図。望遠鏡などから見て、恒星の前を惑星が通過した際に明るさが変化することを利用する (C) NASA Ames

さらに、トランジット法で見つかった惑星をさらに別の手段――たとえば地上の天体望遠鏡など――で観測すれば、TESSが見つけたものが本当に系外惑星なのかという確認はもちろん、惑星の大きさや質量、密度もより正確にわかり、その惑星が地球のような岩石をもった惑星(地球型惑星なのか、あるいは木星のようなガス惑星なのかといった区別、さらに地球型惑星ならその岩石の組成なども導き出すことができる。こうした観測のことを「フォローアップ観測」という。

トランジット法は、系外惑星探査のやり方としては一般的かつ確実性が高く、2009年に打ち上げられた、TESSの先代にあたる系外惑星探査機「ケプラー」(Kepler)でも採用された。

ケプラーはこれまでのミッションの中で、5000個を超える系外惑星の候補を発見。そのうち約半数の2600個以上については、フォローアップ観測の結果、実際に系外惑星であることが確認されており、さらに30個については、水が液体で存在できる温度環境をもつ、いわゆる「ハビタブル・ゾーン」の中にあると考えられている。

この結果はメディアでも「第二の地球が見つかった」として取り上げられたが、正しくは「そう考えられなくもない候補が見つかった」くらいの話であり、今の時点では、生命の有無はもちろん、本当に地球に似た環境なのかさえまだあやふやである。

  • TESSの先代にあたる系外惑星探査機「ケプラー」の想像図

    TESSの先代にあたる系外惑星探査機「ケプラー」の想像図 (C) NASA

TESS

今回打ち上げられたTESSは、このケプラーの後継機となるもので、さらに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星の候補を発見することを目指している。

たとえばケプラーでは、宇宙のある限られた範囲しか観測することができなかった。しかしTESSは、北と南の空をそれぞれ13個に分け、計26個の領域をそれぞれ27日以上かけて観測する。そして約2年をかけて、この空の約85%におよぶほぼ全天をくまなく観測することができる。この範囲はケプラーの400倍以上にも匹敵する。

また、ケプラーは地球から300~3000光年という遠くにある恒星の系外惑星しか発見できなかったが、TESSでは30~300光年と比較的近く、そして30~100倍ほど明るい恒星を探査することができる。地球から近くて明るいということは、それだけ地上の望遠鏡などで観測しやすい、つまりフォローアップ観測がしやすい。

NASAによると、TESSによって観測できる恒星の数は20万個にもなるという。これにより、発見できる系外惑星の数も何千個も増え、ケプラーによる観測成果と合わせ、系外惑星についてさらに詳しく知ることができるようになると期待されている。

さらに、TESSが発見するであろう系外惑星のうち、300個ほどは、地球ほどの大きさをもつ惑星になるだろうと予測されている。もしその惑星が、恒星からほどよい距離を回っていて、大気をもっていて水もあれば、生命が存在する可能性もあるかもしれない。

TESS計画に参加するNASAの科学者Stephen Rinehart氏は、「TESSが発見する系外惑星たちは、今後何十年にもわたって、素晴らしい研究材料になるでしょう」と語る。「系外惑星研究の新たな時代の始まりです」。

  • TESSの想像図

    TESSの想像図 (C) NASA GSFC