半導体産業界のM&Aによる再編は一段落したという論調が目立つ中、マイクロコントローラ(MCU)サプライヤの米Microchip Technologyが2018年3月1日(米国時間)、米Microsemiを買収することで合意したと発表した。

一方、2017年11月6日に発表されたBroadcomのQualcommへの敵対的買収提案の決着は4月以降にずれ込むこととなった。Qualcommは、3月6日に買収提案を協議する株主総会を開催する予定であったが、1か月の延期を決定したためだ。Qualcommの水面下の申し出により、対米外国投資委員会(CFIUS)がシンガポールに登記上の本社を置くBroadcomの買収について国家安全保障の立場から調査を行うためだという。しかし、Broadcomも本社の米国移転を現在進めている段階で、その手続きも5月には完了するといわれており、Qualcommの協議引き延ばし作戦とみられている。BroadcomはすでにQualcomm取締役の過半数から売却の同意を取り付けたと見られているが、CFIUSの審査は1か月で終わるはずもなく、決着はさらに先延ばしされそうである。

IntelがBroadcomの買収を検討と米紙が報道

そんな中、今度は、米Wall Street Journalが3月9日(米国時間)、「IntelがBroadcomの買収を検討している」と業界の内情に詳しい関係者の話として報じた。Intelは本件について3月10日(米国時間)時点でコメントは発表していない。BroadcomがQualcommを買収すると、Intelが脱PCの一環としてこれから注力しようとしている5Gモバイル車載半導体などの新規ビジネスで大きな脅威になるため、防衛的買収を検討しているのではないかとみられている。

2016年に発表されたQualcommによるNXP Semiconductorsの買収は、中国当局の承認待ちの段階である。米韓日グループによる東芝メモリ買収も同様な状態にある。これらの買収が実現すれば、中国勢も参戦してさらなるM&Aの呼び水となり、半導体産業の景色は大きく塗り替えられる可能性がある。

Microchip の企業価値は1兆円超、売上は50億ドル超

MicrochipのMicrosemi買収に話を戻すが、Microchipは、2008年以降、毎年、M&Aを繰り返して、マイコンおよびアナログ半導体企業として大きく成長してきた。2015年にはMicrel、2016年にはAtmelを買収しており、 マイコン市場における売上高順位もこの10年間で8位(2008年)から3位(2016年)に上げている。そして今回、MicrochipはMicrosemiを83億5000万ドル(約8800億円)で買収することで両社は合意した。

  • Microchipは毎年企業買収を繰り返して事業規模を拡大してきた

    図1 Microchipは毎年、企業買収を繰り返して取扱品目を拡大し成長を続けてきた (出所:Microchip)

  • マイコンの市場シェアランキング

    図2 世界マイクロコントローラ市場売上高ランキングトップ10の変遷(2003~2016年)におけるMicrochipの順位の上昇(赤文字および矢印表示)。このランキングはGartnerによる調査に基づくが、IC Insights調査では、2017年のトップはNXP、2位はルネサス、3位がMicrochipとなっている (出所:Gartner資料を基にMicrochip作成)

両社の企業価値は合計でおよそ101億5000万ドルに達するという。2017年のMicrochipの売上高は39億ドル超、Microsemiの売上高は18億ドル超、合計するすると57億ドルを超え、Microchipの売上高は、買収により5割近く増大する。

Microchipの売上高の用途分野別内訳を見ると、同社は、そのほとんどを産業市場や車載市場、コンシューマ市場から得ている。一方、Microsemiの売り上げの多くは、データセンター・通信市場、航空・防衛市場、コンピューティング市場から得ているので、Microchipは、買収後、これらの分野を相補的に強化でき、ポートフォリオを拡充できると見込んでいる。Microchipは、今回の買収で、新たに産業向けEthernet製品、ストレージ向け製品、光ネットワーク向けマイコン、FPGA、無線通信向け製品などをポートフォリオに加え、アナログ/ミクスドシグナル分野をさらに強化できるとしている。Microchipの試算によると、この買収は完了後3年目で3億ドルの相乗効果を生み出すという。

  • MicrochipとMicrosemi、両社統合後のそれぞれのアプリケーション別の売り上げ比率

    図3 Microchipの応用分野別売上高シェア(%)(左上)、Microsemiの応用分野別売上高シェア(%)(右上)、およびMicrosemi買収後のMicrochipの応用分野別売上高シェア(%)(下) (出所:Microchip)

戦略を更新し、さらにM&Aで業績拡大を目指すMicrochip

Microchipは今後、さらに飛躍するために従来のMicrochip 1.0に代わるMicrochip 2.0戦略を立案しており、今回の買収はその戦略に沿うものだという。アップグレードされた戦略は以下の通りである。

  • 8ビット、16ビット、32ビットMCU、および32ビットMPUで強みを発揮
  • 幅広いアナロブ分野のポートフォリア
  • EEPROMおよびフラッシュや組み込みメモリで強みを発揮
  • 有線および無線接続で強みを発揮
  • セキュリティ・ポートフォリオで強みを発揮
  • トータル・システムソリューションの提供

2017年のMicrochipの売上高は、正確には、39億7700億ドル、Microsemi売上高は18億7500億ドルを合わせると58億3200万ドルになる。Microchipは、常に手ごわいライバルとして意識してきた、マイコン市場で長年にわたり先頭を走ってきたルネサス エレクトロニクス(2017年の売上高は7815億円)も視野に入ってきたようである。

著者が、以前、Microchip米国本社を取材した際には、「当社は、8ビットマイコンではルネサスに製造コストでも売上高でも圧勝しており、世界一のサプライヤだ。次は16ビットで勝負したい」とルネサスに対して闘志をむき出しにしていた。新たなMicrochip 2.0戦略では、さらに32ビットMCU/MPUに注力することにしている。Microchipは業績拡大のためさらなるM&Aに意欲を燃やしており、「Microsemi買収後に、一部ビジネスを売却するようなことはしない」(Microchipの会長兼CEO(最高経営責任者)Steve Sanghi氏)としている。