HAKUTOが取れる選択肢は3つ

もし賞金無しでレースを続行することになれば、話は割とシンプルだ。ルールが少し変わったり、これからの新規参入が可能になったりするかもしれないが、方向性としてはあまり変わらないだろう。やるべきことを進めるだけだ。

しかし、もし新しいスポンサーが見つかった場合は、状況はやや複雑になる。新スポンサーの意向により、ルールが大きく変わる可能性もあるからだ。期限もそれにより、どうなるか分からない。

いずれにしても、HAKUTOとしてはなるべく早く、新しい方針が決まって欲しいところだろう。ただし、袴田代表も「数カ月以上かかるのでは」と見ており、しばくは状況を見守りつつ、打ち上げに向けて準備を進めるしかない。

それで今後、HAKUTOはどうするのか、ということであるが、24日の会見では、あまり新しい情報は無かった。ただ、前回(11日)の会見では「TeamIndusと引き続き協力していく」としていたのに対し、今回は「複数の選択肢の中から、最も確度の高いものを優先的に選びたい」としており、ニュアンスがやや変わっていた。

会見で袴田代表は、現時点で想定される選択肢として、以下の3つを上げていた。現状の優先度はフラットで、どの選択肢が最良か、検討しているということだろう。

  1. 引き続きTeamIndusと協力する
  2. 相乗り先を変更する
  3. ispaceミッションに統合する

選択肢1は現状路線ということだが、この会見後、TeamIndusが契約している打ち上げプロバイダーのAntrixから、「2016年に締結した打ち上げ契約を終了させることに合意した」というリリースが出た。

参考: 「Antrixのリリース(LAUNCH SERVICES AGREEMENT BETWEEN ANTRIX AND TEAMINDUS MUTUALLY TERMINATED)」

この影響はかなり大きい。事実上、予定していたPSLVロケットでの打ち上げが不可能になり、別のロケットを探すことになるからだ。しかし、ロケットを変更するのは、そう簡単なことではない。打ち上げ時の振動条件なども変わるし、そのまま載せ替えられるわけではない。

小型のローバーはまだしも、開発規模が大きいランダーとなると、影響はより深刻だ。変更のためのコストは大きく、期間は長くなる。なにより他のロケットの打ち上げ費用は出せるのか。資金不足が指摘されていたTeamIndusにとっては、かなり厳しいのではないかと思う。

  • TeamIndusのランダー「HHK」

    TeamIndusのランダー「HHK」。精度100mで月面に着陸できるという

TeamIndusが25日に投稿したブログ記事によれば、月探査ミッションに必要な金額は6000万ドルと見積もっており、まだその半分ほどしか獲得できていないという。ランダーの準備には6カ月ほどかかるとのことだが、まずは必要な資金をどう集めるかが大きな課題だろう。

参考: 「TeamIndusのブログ記事(TeamIndus, the next phase)」

月面への一番乗りは誰だ?

筆者としては、現状では選択肢2または3の可能性が高いのではないかと考えている。

選択肢2で具体的に考えられるのは米国のAstroboticだ。もともと離脱前はGLXPの最有力チームだったし、HAKUTOの最初の相乗り先でもある。この場合もローバーの改修は必要になるだろうが、協力相手としてはやりやすいだろう。HAKUTOの相乗り契約は破棄ではなく、現在も有効であるとのことなので、ローバーの搭載も可能と思われる。

参考: Astroboticのランダー「Peregrine」のCGには、ローバーも描かれている

Astroboticの最初のミッションは、2020年前半に実施する予定。同社が公開しているユーザーガイドによれば、ロケットは米国のAtlas Vを使用し、地球低軌道(LEO)への相乗り打ち上げになる模様だ。

  • 相乗り先がまだAstroboticのとき、SORATOはこんな形だった

    相乗り先がまだAstroboticのとき、SORATOはこんな形だった

選択肢3は、HAKUTOの運営企業であるispaceが計画している月探査ミッションへの統合だ。この計画では、同社がランダーまで独自開発。2019年末のミッション1、2020年末のミッション2と、2回の打ち上げを予定している。必要な資金としては、すでに100億円超の調達に成功しており、問題は無い。

参考: 「ispaceが「MOON VALLEY」構想を発表 - 月面探査を"毎月"行う時代が到来?」

同社が開発するランダーには、2台のローバーを搭載できるという。この場合でも、GLXP用に開発したローバー「SORATO」をそのまま乗せることは考えられないが、新型ローバーの1台をSORATOという名前にし、クラウドファンディングで作成した刻印プレートを入れるいうことはあるかもしれない。

  • ispaceミッションのイメージCG

    ispaceミッションのイメージCG (C)ispace

ただ、選択肢2と3には、達成できるのが早くても2019年末という弱点がある。当然ながら、開発が遅れ、打ち上げが後ろにずれ込むことも有り得る。それよりも早く実行できる見込みがあるのであれば、選択肢1を選ぶことも十分考えられる。

この結果、現在、最も有利な状況にあるのは米国のMoon Expressかもしれない。利用する予定の新型ロケットElectronが、先日、2号機でついに打ち上げに成功したのだ。相変わらずランダーの開発状況は不明なものの、もしかすると、年内の実現も可能かもしれない。

HAKUTO(ispace)にTeamIndusにAstroboticにMoon Express。あるいはほかにもいるかもしれない。GLXPは3月で終了するが、民間による「月面一番乗り競争」は、より激しさを増してきたと言っていいだろう。おそらくこれからも、実現までにさまざまなドラマがあるはずだ。面白くなってきた。