気がかりとなる保護貿易主義と法人税

牛田SEAJ会長 (出所:ニコン Webサイト)

SEAJの牛田一雄会長(ニコン代表取締役社長)に、今回の需要動向予測とその背景の社会状況について聞いてみたところ、「この予測は、SEAJ内部で議論を重ねたうえで協会の総意としてまとめたものである。2017年の市場環境については、ビッグデータ関連技術やIoTなどをベースとしたスマート社会の実現に向けた技術革新が続く中で、昨年から続いている成長基調がしばらくは継続すると見ている。特に国内においては、センサや車載関連といった自動運転を視野に入れた将来への投資も期待され、市場の拡大の気配を感じている。ただ一方で気がかりなこともある。例えば、世界的に高まりつつある極端な保護貿易主義、輸入関税を高く設定するような機運が強まる中で、日本の半導体業界の輸出競争力が弱まる可能性もあり、法人税についてもトランプ米大統領が税率を15%にすると言っているので、日本だけ高いまま取り残されてしまう可能性もある。日本の産業界の競争力を維持強化していくためにもSEAJとしても要望している法人実効税率の引き下げに理解を得られるように取り組んでいきたい」とコメントをいただいた。

メモリが牽引し成長が見込める半導体市場、FPDは有機ELの動向がカギに

半導体産業の先行指数であるフィラデルフィア半導体指数(SOX)が16年ぶりの高値を更新し続けている。また、2016年後半から新年にかけて半導体メモリの需給がひっ迫し、価格上昇が続いているほか、データセンター向けSSDの需要もノートPCへのSSD搭載も予想を上回るペースで増えている。SSDの需要は2017年には前年比で6割の増加が見込まれ、NANDチップの4割を消費する巨大市場となることが予想される。また、スマホも出荷台数自体の伸びは鈍化しているものの、1台当たりのNAND搭載容量は増加しているため需要の後押し要因となるほか、そうした流れから、メモリメーカー各社がリソースを3D NANDの生産能力増強や高層化に向けた技術開発に向けており、DRAMの需給のひっ迫も継続しそうである。

こうした背景から、半導体メモリとりわけ3D NANDが、メモリメーカーの売り上げや利益を押し上げることにより、2017年の半導体産業全体のけん引役となることは間違いないだろう。本来なら東芝の中核事業となるはずのNAND事業が分社化され、部分的とはいえ売却されそうな事態に陥っているが、こうした情勢を踏まえれば、中国勢も含めて多くの投資家の関心の的になるのは、当然だろう。

一方、ディスプレイ市場は、中国の国策による爆投資が続き、雨後のタケノコのようにパネル工場が中国各地に誕生しているが、海外勢に追い付き追い越すための需給バランス無視の投資のため、需要が飽和気味となり、パネル価格が低下し、今後の伸びは期待できない。韓国勢は、液晶パネルでの中国との競争を避けて、既存の液晶ラインをたたんだり、中国へ売却して、液晶から脱皮して先行する有機ELで勝ち残ろうとしているが、液晶ラインを新設予定の中国勢の中には有機ELラインに切り替えるところも出ており、先行している韓国勢もうかうかしてはいられない。

かつて多数の企業が切磋琢磨し輝いていた日本勢は、いまや産業改革機構の支援を仰がなければ生き残れなくなったジャパンディスプレイ(JDI)と、台湾勢による買収を選択したシャープしかなくなってしまった。日本勢は、先行する韓国勢と追い上げる中国勢との挟まれて、いまや両社ともかつてのトップメーカーの面影はない。

スマホもテレビもPCもタブレットも需要が飽和気味で、残念ながらFPDの需要が大きく伸びる余地はないと言える。そのようなディスプレイ業界で2017年最大の話題は有機ELである。Appleが秋に発売するであろうiPhoneの新機種は、従来の液晶パネルに変えて有機ELパネルを搭載するのではないかという期待感でFPD業界は盛り上がっている。iPhoneの次世代機が画期的であれば、他社も追随し有機ELパネルへの移行が加速する可能性がある。とはいえテレビは、有機ELの採用は話題性があるものの、とびきり高価の割にそれに見合う画質が期待できないため、今後とも液晶の時代が続きそうだ。今年はソニーが有機ELテレビに再参入し、東芝やパナソニックも参入すると言う話だが、いずれも自社で長年開発してきた有機ELパネルはモノにできず、韓国LG Electronicsの有機ELパネル(白色有機EL+カラーフィルタ方式)を採用するという。「技術の海外流出を防げ」などと言っていたのは今や昔、LGの2番煎じのテレビで日本勢が復権する可能性がどの程度あるのか筆者にはわからないが、先行するLGは、印刷方式で安価に大量生産が可能な究極の有機ELテレビ(3原色独立発光方式)の開発を急ピッチで進めている状態だという。