ハードウェアの呪縛から開放され普及期到来のFPGA

次は長年にわたってアクセラレータとして期待されつつも、いまいち日の目を見なかったFPGAの動向だが、この数年、大きな動きが立て続けに起こっている。最大の動きは、2大FPGAベンダの1社であるAlteraがIntelに買収されたことであろう。これにより、IntelはXeon+FPGAのMCPを提供するなど、データセンター分野を中心にFPGAのさらなる活用を図ろうという動きを見せている。

一方の大手FPGAベンダであるXilinxの動きはというと、プロセスの微細化によるFPGAの演算性能の向上はもとより、従来の開発環境である「ISE」から「Vivado」へと移行をアナウンスして以降、FPGAを使ってもらうための周辺環境の整備に注力してきたところがあり、ここに至って、その成果が徐々に出始めてきた、という感じを受ける。いわゆる「SDx」という開発環境で、SDSoCやSDAccelといったものが提供されている。これは、OpenCLやC/C++といった言語でFPGAの回路開発を可能とするものであり、これにより、Verilog HDLはVHDLといったハードウェア記述言語を知らなくてもFPGAの回路を手軽に構築することができるようになった。

Xilinxのコーポレートストラテジー&マーケティング シニアバイスプレジデントであるSteve Glaser氏

その結果というわけではないが、10月にはBaiduがデータセンターの機械学習アプリケーションのアクセラレータとしてFPGAを採用したことを明らかにしたほか、12月にはAmazon EC2のF1インスタンスに同社のFPGAが採用されたことが発表された

Xilinxのコーポレートストラテジー&マーケティング シニアバイスプレジデントであるSteve Glaser(スティーブ・グレイザー)氏は、「Xilinxはこの5年で大きく変化し、ソフトウェア&ハードウェアなオールプログラマブルな企業へと変化を進めてきた」と、こうした取り組みの背景を説明。FPGAというハードウェアのみならず、周辺のソフトウェア環境などの整備も進めてきたことで、「クラウドコンピューティング」「エンベデッドビジョン」「IIoT」「5G」といった4大メガトレンドへの参加が可能になったことを強調していた。

もともとデータセンターでFPGAは活用されてきたが、近年はその用途、応用範囲が拡大している。その背景には、プロセスの微細化に伴う搭載ロジック数の増加に加え、手軽に回路を構築できるように開発環境を整備してきたということも挙げられる

また、11月には、データセンターにおけるメインストリームを狙うことを目指し、「リコンフィギュレーション可能アクセラレーションスタック」を発表。これを活用することで、競合FPGAの2~6倍の演算効率を手軽に実現できるようになるとしている。

ちなみに、同社のFPGAは少なくとも、ハイパースケールデータセンターのトップ7社(スーパー7とも呼ばれる)のうち、Baidu、Amazon(AWS)、DeePhi Tech、Microsoftの4社には導入されているようだ。また、「リコンフィギュレーション可能アクセラレーションスタックは、ハイパースケールデータセンターができる限り早く実装できることを目的に開発を進めてきたものであり、すでにトップ7社すべてに提供している」とのことで、マシンラーニング、ビデオトランスコーディング、リアルタイムデータアナリティクス、ネットワーキングやストレージの仮想化、そしてまだ見ぬアプリケーションにもFPGAの柔軟性を活用して対応を可能としているとする。

リコンフィギュレーション可能アクセラレーションスタックの概要。リファレンスデザインの開発ボードのほか、主要なフレームワークとライブラリ、OpenStackのサポートなどが含まれている

なお、2017年第1四半期のOpenStack Octaリリースには、同社が提供するOpenStackサポートパッケージが含まれる予定であり、これによりFPGAを利用したアクセラレータのプロビジョニングと管理の容易化が可能になるとしている。また、ディープラーニングフレームワーク「Caffe」についても、DNNアプリケーションライブラリによるコンパイルも含めてサポートしているほか、TenserFlowといったほかの手法フレームワークのサポートも2017年上半期から行っていく予定としている。

「XilinxのFPGAでは、INT8のディープラーニングに向けて最適化されたライブラリなども用意している。すでに、2つのINT8累積乗算(MACC)演算を同時に処理するためのホワイトペーパーも提供している。そうした点も含め、FPGAは今後、ハイパースケールデータセンターにおけるメインストリームになれる可能性が見えてきた」と同社では述べており、今後、さらにソフトウェアを中心とした環境の整備を進め、ユーザーの拡大を図っていく構えを見せている。