リニアテクノロジーは10月27日、都内にて「第3回ダスト・コンソーシアム」を開催。基調講演として、東京大学 先端科学技術研究センターの森川博之 教授が登壇し、「デジタルが社会・経済・産業・ビジネスを変える」と題し、あらゆるところでデジタル化が進んでいること、それにより何が起こるのか、といったことを語った。

「第3回ダスト・コンソーシアム」の基調講演に登壇した東京大学 先端科学技術研究センターの森川博之 教授

もはやIoTという言葉をビジネスシーンで聞かない日はない状態だが、「最近では、アナログプロセスのデジタル化、という表現がされており、仕事の中にあるアナログプロセスに気づき、デジタル化していくこと」ということを指し示すようになってきたと森川氏は指摘。従来のIT/ICTは企業内の情報システム部門がコスト削減のために活用していくものであったが、IoTはそれをビジネスツールへと転換を図るものであるとした。

ちなみに森川氏が考えるアナログプロセス、というものがどのようなものかというと、例えばスペインのバルセロナにあるコメディ劇場では入場料を無料として、代わりに「Pay per Laugh」を導入した。これは笑った回数により課金される、というシステムであり、客席に設置されたカメラで笑ったとされるたびに課金がされていくという仕組みである。この結果、劇場の売り上げは30%増加し、顧客(この場合は観客)の満足度も向上したという。「IoTを保守的、つまりまじめに考えると、動けなくなる。やってみて、走りながら考えないといけない、という事例」と森川氏はIoTの活用がビジネスの考え方そのものを変えてしまう存在であることを指摘する。

こちらは国内の事例。左は埼玉県のイーグルバスの事例。バス停で何人乗って、何人降りたのかを調べ、時刻表とバス停の再配置を行うことで、赤字を黒字にすることに成功したという。右は高知県のスーパーマーケットを展開するサンプラザの事例。サンプラザでは、客が持ってくる古紙を回収し、代わりにポイントを付与していたが、その回収の状況をスマート化させることで、一定量以上に貯まったら、回収する、といったように回収効率を向上させることに成功したという

デジタル化によりすべてが再定義される時代が到来

では、実際にIoTを活用してみると、何が得られるのか。「長い経験と勘を有している人であれば、アナログでも良かった。デジタルを活用して、データを蓄積し、そこからなんらかの答えを導けられれば、そういった経験者と同じことが、より手軽に得ることが出来るようになる」とし、マクロの視点としての労働生産性の向上につながることを指摘。今後、人口減少が進むであろう日本にとっての鍵の1つになるとした。

とはいえ、ITやICT業界における技術者の分布を見ると、米国では半数以上のIT技術者がユーザー企業側に存在しているものの、日本のその割合は1/4以下であり、「重要なのは、ユーザー企業側をスマート化していくこと。ICT企業とユーザー企業が協業していく仕組みをつくり、ユーザー企業をICT企業がサポートしていく、という流れを作る必要がある」ということを強調した。

また、そうした時代の到来に向け、どういった視点で何を考えていく必要があるかということについては、カーシェアリングなどの「物理的資産のデジタル化」に注目する必要があり、「現時点で、デジタル化されていない資産はなにか、を考える必要がある。例えば、工場内部の機械はデジタル化されておらず、もしかすると、デジタル化による設備のシェアリングサービスといったビジネスモデルも生まれるかもしれない」とし、「再定義」という言葉をキーワードに、組織のあり方、製品企画のあり方など、ありとあらゆるものを新しく考えなおしていく必要がでてくる可能性を常に頭の隅に置いておくべきであるとする。

非製造業の労働生産性の対米比(左)と、日米のIT関連技術者の分布図(右)