CERN(欧州原子核研究機構:the European Organization for Nuclear Research)は7月4日、ATLAS(A Troidal LHC Apparatus)実験およびCMS(Compact Muon Solenoid)実験が行ってきたヒッグス粒子の探索に関する最新の暫定結果として、両実験ともに質量125-126GeV/c2付近に新粒子を観測したことを発表した。

LHC加速器 (C) CERN

ATLAS検出器 (C) CERN

同粒子は、両実験ともに5σ程度の確度(3×10-7)で、スピンが整数のボゾン(ボーズ粒子)であるため、これまで発見されたボゾンの中で最も重いものになるという。

ヒッグス粒子の質量が126GeV/c2付近だと、bb,WW,gg,ττ,cc,ZZ,γγの順に崩壊する割合が高い。バックグラウンドとの兼ね合いでWW,ZZ,γγ,ττ,bbの5つが有力。特に感度の高いのは、γγ、ZZ(→4レプトン)、WW(→2レプトン+ニュートリノ)の3つのチャンネルが発見する上で重要な役割を果たす

ただし、この結果は2011年と2012年に大形ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いて収集したデータが基になっているが、2012年のデータはまだ解析途中にあることから、暫定的なもので、最終的な解析結果の公表は7月末に論文として発表される予定だ(2012年の第1期データ収集は4月4日から6月18日にかけて実施され、積算ルミノシティ6.3fb-1を収集した。これは陽子・陽子衝突約600兆回に相当するもので、2011年の実験の約2割増しとなるという)。

ヒッグス信号の見え方模式図

今回発見された新粒子は、ヒッグス粒子と見られるものの、断定するにはさらなる研究が不可欠であるとのことで、さらにデータを収集した後、2012年中に今回の観測結果の全体像が見えてくるという(7月1日からは第2期データ収集も開始されており、10月末までの実験が予定されており、2012年の積算ルミノシティは15~20fb-1になる予定で、これによりヒッグスがタウベアー、bクォークペアーに崩壊した2つのチャネルに対する研究なども進むこととなり、ヒッグス粒子と同定することが可能になるという)。

また、研究チームは、同粒子の性質を精密に測定し、宇宙を理解するうえでどのような役割をはたしているかを明らかにすることが次のステップであるとコメントしているほか、同粒子の性質が、長年探索されてきた標準理論最後の未発見粒子「ヒッグスボゾン」と一致するのか、あるいはもっと奇妙な粒子であるのか、ヒトが観測できる物質は宇宙全体の4%に満たないと考えられており、ヒッグス粒子の性質が標準理論の予想と異なることがわかれば、まだ得体のしれない宇宙の96%の成分の理解につながる可能性があるともコメントしている。

多様性が生じていく宇宙の過程。ビッグバンから10-10秒後でヒッグス場が相転移して、素粒子がさまざまな質量をもち、多様な世界が誕生したと考えられている。質量のない世界では、すべての素粒子は光速で運動することとなるため、止まることもできない

CERN所長のロルフ・ホイヤー氏は「自然を理解する上での新たな段階に入った」と述べ、「ヒッグスボゾンとみられる粒子の発見は、それの詳細な研究へと続いていく。たくさんのデータを溜めることで、新粒子の性質をさらに調べることができ、そこから我々の宇宙の他の謎を解き明かすことができるかもしれない」と、物質構造の解明が次のステップに移ったとしている。

自発的対称性の破れとヒッグス場の相転移

なお、LHCは2014年の秋から衝突エネルギーを従来比で約2倍に増強され、14TeVの実験を行う予定であり、これにより、より重い新しい素粒子の発見が可能となり、超対称性粒子などの発見が期待できるようになるという。