慶応大学の木下綾子氏らの研究発表は、肝臓の4次元(1次元は時間)シミュレーションに関するものである。肝細胞の働きを数百の化学反応式でモデル化し、数百から数千の微分方程式で記述するE-Cellモデルを使用している。

慶応大学の木下氏らのVCADとE-Cellの連携による肝臓の4Dシミュレーション。写真では判読しにくいが、図の右下にびっしりと肝細胞の化学反応式が書かれている。

この肝細胞が約100万個集まって肝小葉となり、中心静脈の周りに放射状に存在している。スライドの左上の部分の図は、放射状の部分の一部の拡大図であり、左側の門脈から右側に書かれた中心静脈に向かって血液が流れる。

この肝細胞をVCADのボクセルに配置して3次元モデルを作成し、肝小葉、肝臓全体の階層モデルを作成し、数億個の肝細胞からなる肝臓モデルを作成する。そして、細胞ごとの化学反応の単位で肝臓の働きをシミュレートするというプロジェクトである。

現在は、モデルを作成した段階で、まだ結果は出ていないが、強力なスパコンの出現により、数億個の細胞のそれぞれについて数百から数千の微分方程式を解き、その時間経過を求めるというシミュレーションが可能になり、肝臓の働きを細胞の代謝レベルで理解し、医療に役立てることができることを目指している。一例を挙げると、肝臓癌は不思議なことに血流の上流側にしか転移しないそうで、このようなシミュレーションにより何故、そうなるのかが分かるのではないかと期待されるという。