筑波大学の諏訪多聞氏らは、水素とヘリウムだけからなる宇宙の第一世代星の形成の過程をシミュレーションし、どのようにこれらの星が形成されたかに関する研究を発表した。第二世代以降の星は、第一世代星が超新星爆発を起こした残骸のヘリウムより重い元素を含んで作られており、第一世代星の形成過程とその結果としての星の大きさは、その後の宇宙の進化に大きな影響があるという。

M@筑波大の諏訪氏らの宇宙第一世代星形成の高分解能シミュレーション。|

諏訪氏らは、一辺が100kpc(32.6万光年)の領域に、重力相互作用だけを行うダークマター粒子と通常物質であるガス粒子をそれぞれ2000万個つぎ込み、宇宙年齢約2.8億年の時点での密度ゆらぎを加えて各粒子の運動をシミュレートしている。

膨大な数の粒子間の重力を計算するため、PCクラスタを構成する各マシンに重力計算専用アクセラレータであるBlade-GRAPEボードを搭載した筑波大のFIRSTシステムを使用している。FIRSTは256台のPCサーバを持ち、そのうちの240台にBlade-GRAPEが付いている。そして、FIRST全体ではPC部は約3.1TFlops、GRAPEアクセラレータは33TFlopsの性能を持っている。

従来の研究では、ガスは大きな塊として収縮し、第一世代星は常に孤立した巨大星として形成されると言われていたが、諏訪氏らの高分解能シミュレーションでは、右下の図のように、ガスは球対称ではなくフィラメント状に収縮し、密度ピークの領域で重力不安定が生じて4つに分裂するという結果が得られた。

4つに分裂したそれぞれのガス塊は100太陽質量程度の大きさであり、このまま大質量星になるのか、さらに分裂が起こるかを明らかにするには、更に計算精度を上げていく必要があるという。

フェムト秒レーザー照射による電子励起状態シミュレーション

日本原子力機構の乙部智仁氏らは、大規模並列計算による多電子系非線形ダイナミックスの量子的記述という研究を発表した。

日本原子力機構の乙部氏らのフェムト秒レーザーによる電子励起のシミュレーション。

乙部氏らは、多電子系を解析する標準的な手法である密度汎関数法(Density Functional Theory(DFT))を時間変化する系に拡張したTD-DFT法を用いて、強いレーザーを照射して電子にエネルギーを与えたときの振る舞いを解析した。ダイヤモンド結晶に、16フェムト秒という短いパルスの強力なレーザーを照射すると、基底状態から励起された電子が増加し、多数の励起された電子により非線形に吸収が増加し、レーザーパルスが終わった後にも励起された電子のプラズマ振動が残るという結果が得られた。

このようなプラズマ振動現象は、これまで知られておらず、今回の微視的なシミュレーションで初めて明らかになったという。