AI検索で「この街でおすすめのカフェは?」と尋ねたとき、その答えに一度も出てこない店はどれくらいあるのでしょうか。
従来のWeb検索であれば、仮に1ページ目に入らなくても、ユーザーが検索結果をたどることで見つけてもらえる余地がありました。しかし、AI検索で返ってくるのは数店に絞り込まれた短い回答です。そこに含まれなければ、ユーザーの目に触れる機会そのものが生まれません。店舗経営者にとっては看過できない問題です。
Norly Researchのウラジーミル・ピテニン(Vladimir Pitenin)氏が8月に公開した論文「Invisible to the Machine」で、この「AIから見えない店」の実態が浮き彫りにされています。
調査の結果、対象店舗の85.6%が、検証された主要4つのAIのいずれからも一度も推薦されませんでした。しかも、AIの推薦に入るかどうかを分けていたのは、店舗の星評価ではありませんでした。
AIの回答に「出てこなかった店」を数える
この調査がユニークなのは、AI検索で一度も出てこない店まで含めて可視性を測ろうとした点です。
AIがどの企業や店舗を推薦するかを調べた研究はこれまでにもありました。ただし、その多くは有名ブランドや店舗を数十~数百あらかじめ選び、その名前がAIの回答に現れるかを調べる方式です。
この方法では、最初から調査リストに入っていない店を「出てこなかった店」として数えられません。そのため、「市場全体のうち、AIからまったく見えていない店はどれくらいあるのか」という問いには、原理的に答えられないのです。
ピテニン氏は調査対象としてインドネシア・バリ島のチャングーとウブドを選びました。Googleに登録されているレストラン、カフェ、バー、コーヒーショップ、ベーカリーを、対象地域を細かな格子に区切って収集し、最終的に4776軒からなる市場台帳を構築しました。
そのうえでChatGPT、Claude、Gemini、Perplexityの4つのAIに、96種類の質問を7日間にわたって繰り返しました。「1カ月滞在するので、ノートPCで仕事ができるカフェを知りたい」「記念日のディナーに適した店は」といった、旅行者や長期滞在者が実際に使いそうな質問です。
回答は合計2208件に上りました。AIの推薦は、延べ9791件。少なくとも1つのAIから推薦された店舗は689軒でした。残る4087軒、全体の85.6%は一度も推薦されませんでした。レビューが50件以上ある、一定の認知を得ている店舗に限っても、72.6%が登場していませんでした。
今後、AIが地域情報を探す入口として存在感を増すなら、これは単なる検索順位の問題ではなくなります。現実の街では営業しているのに、AIを通して街を見る人にとっては存在しないに等しい店が生まれるからです。
「良い店」の前に「AIから見える店」になれるか
では、AIに見える店と見えない店を分けていたのは何だったのでしょうか。
回答への登場と関連していたのは、自社Webサイトの有無、レビュー件数、価格情報の記載、第三者サイトからの言及でした。いずれも、店についてWeb上にどれだけ情報が蓄積されているかを示す要素です。
興味深いのは、回答に入るかどうかの段階では、星評価に有意な関連が確認されなかったことです。一方、すでに回答に登場した店舗に絞ると、今度は星評価が「最初に推薦される」ことと有意に関連していました。
つまり、AIによる店舗推薦には二つの関門がある可能性があります。
最初の関門は、そもそも候補として認識されることです。ここでは、店についてWeb上にどれだけ情報が存在するかが重要になります。そして、その門を通った店舗のなかでどれを強く薦めるか、という段階になって、ようやく評価が意味を持ちます。
検索時代のローカルマーケティングでは、レビューを増やし、星評価を高めることが重視されてきました。その努力が無意味になるわけではありません。ただし、AIという新しい入口では、その前にもう一つ仕事が増えます。良い店として評価される前に、まずAIから「存在する店」として認識される必要があるのです。
ハルシネーションより目立つ「古い情報」
この構造からは、もう一つの問題が見えてきます。
生成AIの問題と聞けば、もっともらしい嘘を作る「ハルシネーション(幻覚)」を思い浮かべる人が多いでしょう。存在しない店をAIが作り上げてしまう、といった問題です。ところが今回の調査で、架空の店舗である可能性が高いと判断された名前は、1万2000件を超える有効な店舗言及のうち10件、0.08%にとどまりました。
代わりに目立ったのが、古い情報の影響です。すでに完全に閉店している14店舗が、合計93回も推薦されていました。
閉店しても、レビューは消えません。まとめ記事への掲載も残ります。そしてそれらは、AIに候補として拾われます。店を見えるようにした情報の蓄積が、閉店後もその店を見えるまま生かし続ける。著者はこれを「捏造ではなく陳腐化」としています。閉店という事実は、評判ほど速くWeb上に伝わらないのです。
同じ質問・同じAIでも、推薦結果は揺れる
事業者やマーケターにとってもう一つ重要なのが、AIの推薦結果そのものが揺れることです。
同じAIに同じ質問を繰り返しても、推薦される店舗は一定ではありませんでした。AI同士の一致度も高くありません。各AIの上位20店舗がどれだけ重なるかを示す指標(Jaccard係数)は0.33~0.54で、4つすべての上位20に入った店舗はわずか8軒でした。1つのAIで推薦されたからといって、次も同じように推薦されるとは限らず、他のAIで推薦されるとも限らないわけです。
これはAIが完全に無作為に店を選んでいる、という意味ではありません。論文では、店舗ごとに比較的持続的な「見えやすさ」がある一方、それを観測するAIの回答には「確率的な揺らぎ」があると捉えています。実際、2週間後に同じ質問群を再度試したところ、時間を空けた場合の変化は、同じ期間内で繰り返した場合と統計的に同程度でした。短期間にモデルや市場が変化したというより、回答生成に伴う揺らぎが主因だという解釈です。
ここから、GEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)が抱える問題が見えてきます。
自分の店をChatGPTで1回調べて「出てこなかった」「3番目に出てきた」と確認しても、それだけではAI上の可視性を判断できません。測るのであれば、複数のAIに、複数の言い回しで、繰り返し尋ね、どれくらいの頻度で名前が挙がるかを見極める必要があります。
GEOでは、従来の検索順位とは異なる測定の考え方が求められています。ただ、現在の可視性測定には、こうした回答の揺らぎを十分に織り込めていない面があります。
AIに認識されるため、企業の仕事はどう変わるか
もちろん、この研究だけで一般化することはできません。Webサイトを持つ店ほどAIに推薦されやすかったからといって「サイトを作れば推薦される」と証明されたわけではありません。これは観察研究であり、示しているのは因果関係ではなく関連性です。
対象地域もバリ島の2地区、質問はすべて英語で、利用者像も旅行者と長期滞在者に限られます。著者自身、他地域や英語以外の言語への一般化はまだできないと明記しています。
それでも、この研究が突きつける問いは示唆に富みます。
検索エンジンの時代、企業は検索結果の上位に出るためにWeb上の情報を整えてきました。AI検索の時代には、その手前に、AIが自社を推薦候補として認識できるだけの情報をWeb上に残すという仕事が加わります。
レビューを何件集めたか、星はいくつか。そうした競争がなくなるわけではありません。しかし良い店である前に、AIが認識する「世界の構成要素」になれているかが問われます。AIを通して街を見る人が増える時代に、マーケティングにおける「存在する」の意味そのものが変わろうとしています。


