いよいよ米国でトランプ新大統領の4年間が始まった。再選なった新大統領が目指すものは「アメリカ第一主義」に基づく、内政、外交、貿易、安全保障と非常に多岐にわたる分野での新たな取り組みだ。その多くが前バイデン政権が打ち立てたものを否定する方向性であるのが目立つ。

バイデン前大統領は直前の退任演説で「超富裕層による少数支配の政治が形成されつつある」と警鐘を鳴らした。直接的にはトランプ大統領自身や、トランプ氏と非常に近しい位置につける実業家のイーロン・マスク氏を指すと思われるが、バイデン氏は「テクノロジー産業の複合体の台頭についても懸念している」とのコメントを付け加えた。

ここで言及しているのはGAFAMらの巨大ITプラットフォーマーの超巨大化とその増大する影響力についての懸念である。少数の支配者とは英文では「Oligarchy(オリガーキー)」と記されている。あまり聞きなれない言葉だが、今後はハイテク業界がらみの社会問題を扱う議論で度々耳にするものになりそうだ。

オリガーキー(寡頭支配)による弊害を危惧するバイデン前大統領の発言

オリガーキーとは国または市場を支配する権力が少数の人物や団体に握られる体制を指す。よく耳にする「モノポリー:独占」が一社による市場支配であるのに対し、「オリガーキー:寡占」は複数のごく限られた複数の大企業によって市場支配が行われる状態である。

「独占」と同じように、市場支配が過度になると、他企業の市場への新規参入が困難になり技術革新を停滞させ、支配企業は支配力をさらに増すことになる。結果的に自由市場のメカニズムが効かなくなり価格上昇など消費者の不利益に繋がる。バイデン政権のもとで、リナ・カーン委員長率いるFTC(米国公正取引委員会)は、巨大IT企業による市場支配について果敢な戦いを繰り広げた。しかしGAFAMに代表される巨大企業の市場支配は、市場全体を一括りに定義することができないため独占禁止法に基づいた政府当局による規制の実施は困難である。現状では、小売り/物流市場でのAmazon、SNSではFacebookのMETA、検索エンジンではGoogleというように、巨大市場に成長した各分野を限られた企業が市場支配を繰り広げていて、利用者はその利便性ゆえに依存度を限りなく上げてしまう場合が多い。オリガーキー企業の経営者たちは、株価の驚異的な上昇で超富裕層を形成していて、世界の中小国家よりも遥かに多くの資産を形成することになり、その影響力は増大する一方である。バイデン氏が退任演説で警鐘を鳴らしたのは、まさにこうしたオリガーキー支配の危険性についてであった。

トランプ新大統領にすり寄る動きを見せるオリガーキー企業

トランプ新大統領の就任イベントはバイデン氏が警鐘を鳴らした状況を明示する象徴的なものとなった。

選挙運動中、終始トランプ氏を強力にサポートしたテスラのイーロン・マスク氏をはじめ、Amazonのジェフ・べゾス氏、Googleのビチャイ氏といった巨大ITプラットフォーマーCEOのそうそうたるメンバーが招待され、最前列に一堂に顔をそろえたのが印象的だった。特に、第一次トランプ政権時代は、トランプ氏のアカウントを停止するという決断をしたザッカーバーグ氏が、トランプ氏の返り咲きを受けてFacebookでのファクトチェックを廃止する決定をし、仇敵であったマスク氏と談笑している写真は印象的であった。巨大経済圏を形成するオリガーキー各社は例外なくトランプ新大統領にすり寄る姿勢を見せる。

今や、ビジネス最優先の“Anything Goes(何でもあり)”の様相だ。

今後注目される欧州と中国の動き

バイデン政権下ではかなり強硬な姿勢でこうしたオリガーキー企業への睨みを効かせた独禁当局も、人事が一新し今後の姿勢には大きな変化が生まれるだろう。

また米国ベースのオリガーキー支配に対して強硬に対応するとみられるのが欧州の独禁当局である。欧州委員会は個人情報保護と自由競争を確保するための法整備を早い時期から準備していて、今後その姿勢がより強固になる可能性が高い。

また、米国と激しい技術覇権競争を繰り広げる中国は、トランプ新政権による高関税に対する報復関税を始めとする強硬措置で応酬する事になる。高度にグローバル化した世界のサプライチェーンの思わぬ箇所で手痛い分野を突かれる可能性も充分に考えられる。その中で、これらのオリガーキー企業活動の基本構造をなしている半導体業界も自然と大きな影響を受けることになる。