ロッキード・マーティンが2026年8月4日に、「赤外線捜索追尾(IRST)センサーとAIエージェントを組み合わせ、航空機を自律的に要撃する飛行試験を実施した」と発表した。
これだけ見るとチンプンカンプンだが、「軍事とAI」という連載にとっては面白いテーマ。AIが目標機を捕捉・追尾し、要撃針路の算出から機体の操縦までを担った今回の試験は、人戦闘用機の実現に向けた重要なステップだ。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
レギオン・ポッドとAIエージェントの組み合わせ
この試験は、以前にも本連載で取り上げたことがある、ロッキード・マーティンのIRST(Infrared Search and Track)センサー・ポッドの “レギオン”、それと人工知能(AI : Artificial Intelligence)エージェント “Supermassive” を組み合わせて実施したもの。
ターゲットを務めたのはパイロットが操縦するT-38タロン練習機で、要撃を担当したのはF-16Dの改造機、X-62A VISTA(Variable In-flight Simulation Test Aircraft)。システム・インテグレーションと地上試験に要した期間は3カ月というから仕事が早い。
この試験に関わっているのは、ロッキード・マーティンの先進開発部門 “スカンクワークス” と、米空軍のテストパイロット学校(TPS : Test Pilot School)やパートナー各社といった面々。では試験の内容は?
レギオン・ポッドのIRSTから得た赤外線センサーの探知情報を、AI エージェント “Supermassive” に取り込む。AIエージェントは、そのデータに基づいて要撃針路を割り出し、それに沿って機体を操って接敵する。キモは、探知情報に基づく要撃針路の設定・実行を、AIエージェントが自律的に実施したこと。
実施したフライトは全部で8回、要撃は27回というから、一度のフライトで複数回、接敵したり離れたりを繰り返したことになる。
AIはどのように要撃針路を割り出すのか
とだけ書くと判じ物になりかねないから、もうちょっと噛み砕いてみる。
たとえば、駅で誰かと待ち合わせをしていて、相手が歩いてくるのを見つけた場合にどうするか。もちろん、自分は動かないで待っていてもいいのだが、相手のところまで歩いて行く選択肢もある。その場合、相手がどちらに向けて歩いているかを見定めた上で、「この辺に向かえば会同できるのではないか?」と考えて、その予想位置に向けて歩いて行くのではないだろうか。
今回の試験でやったことは、それと似ている。レギオン・ポッドで飛行中の航空機を捕捉追尾して、その航空機に向けて近接するための針路を割り出し、それに沿って機体を飛ばす。それをAIエージェントにやらせたわけである。
要撃針路を自動的に割り出すだけなら、もう歴史は長い。古のSAGE(Semi Automatic Ground Environment)防空指揮管制システムの時代からやっていたことである。ただしそれは、算定した要撃針路に沿ってパイロットが機体を飛ばすというものだ。それに対して今回の試験では、機体を飛ばすところまでAIが面倒を見ている。
「そんなの簡単そうじゃね?」と思われそうだが、相手も高速で飛行しているのだ。探知したときの位置に向かっても置いてけぼりである。未来位置を予測しなければならない。
しかも、相手は必ずしも一定の針路で水平直線飛行するとは限らない。よからぬ意思を持って他国の領空に近接するような機体であれば、捕捉追尾を避けようとしてあの手この手を講じてくるだろう。それを迎え撃つ側は、継続的に捕捉追尾して、必要に応じて要撃針路を計算し直して、それに合わせて機体を操らなければならない。
実戦なら遠方から空対空ミサイルを放ってもいいが、対領空侵犯措置では事情が異なる。まず、探知した正体不明機の横まで行かなければならない。相手の針路・速力を勘案しながら会敵位置を決めて、こちらの針路を割り出さなければならない。
それと同じ仕事を、機上センサーとAIの組み合わせで実現したのが、今回のX-62Aによる試験ということになる。だから、「最初に要撃針路を割り出して終わり」ではなく、捕捉追尾~要撃針路の割り出し~実行というループを回し続けるところが、この試験のキモである。
ただし、これは捕捉追尾がすんなりとできた場合の話。敵が妨害や欺瞞を講じてきたときの対処など、さまざまな不確定要因があることを考慮に入れなければならない。だから、実用になるには、さまざまな追加の研究開発が必要になろう。
無人機によるスクランブルは実現するのか
この仕組みが実用レベルまで仕上がれば、無人機によるスクランブルも可能になる理屈。
日本でも最近になって話が出てきたような「偵察などの目的で飛んでくる無人機にスクランブルをかける場面で、有人戦闘機の代わりに無人機を使ったら?」といった場面で、この手の仕組みが役立つことになるかも知れない。
ただし問題は、対象となる機体のところまで行った後であろう。
そこで記録のために写真を撮るぐらいなら自動的にできそうだが、状況に合わせた適切な判断・行動、わざと近接してくる等の嫌がらせへの対処など、考えなければならないことはいろいろある。そこで判断を間違えると、最悪の場合には戦争の引き金を引くことにもなりかねない。


