ステルス機は低周波レーダーなら見つけられるのか?
対レーダー・ステルス技術の基本に関する話は、本連載で過去に何度も言及してきているので、今回は割愛する。
そして、以前にも少し触れたことがあったかと思うが、対レーダー・ステルス技術はあらゆる周波数に対応できるわけではなく、特定の周波数帯に重点を置く。そして、軍用機にとってもっとも脅威が高いのは対空用の射撃管制レーダーであり、それは比較的高い周波数の電波を使う。
そこに的を絞って対レーダー・ステルス技術を適用すれば、もっと低い周波数の電波では事情が変わり、周波数が高い電波よりも相対的に探知しやすくなるかも知れない。そんな話が一般的にいわれているし、実際、ロシアや中国は周波数が低いVHF/UHFレーダーの開発・配備を続けている。
対して米軍はというと、E-2ホークアイが初期型から現在に至るまで、UHFレーダーを使用している。ただ、もしも反射波を捉えやすくなったとしても、それだけでは実戦の用に供するものとして不十分。一瞬だけスコープにブリップが現れるだけでは駄目で、連続的に追尾ができなければならない。
地面や海面からの反射波をどう除く? STAP処理の仕組み
当初から、E-2Dが搭載するAN/APY-9レーダーの特徴として喧伝されているのが、時空間適応処理(STAP : Space-Time Adaptive Processing)。
地面や海面を背景とするレーダー捜索は上空から見下ろす形になるので、下方にいる探知目標からの反射波だけでなく、地面や海面からの反射波(クラッター)も受信してしまう。それらを漫然と受信すると、本来の探知目標からの反射波がクラッターに埋もれてしまう。
そこで用いる一般的な解決策は、ドップラー効果の利用。地面や海面は動かないが、空中を移動する探知目標からの反射波はドップラー効果による周波数変動(ドップラー・シフト)を生じるはずだ。そのドップラー・シフトが生じている反射波だけを選り分ければ、クラッターを排除できるとの理屈になる。
ところが、低速で移動している目標はドップラー・シフトが小さくなってしまう。そこでSTAP処理が登場する。
ドップラー・シフトを利用して移動目標だけを拾い出す処理(MTD : Moving Target Detection)とは、時間方向の処理といい換えられる。それを単独で用いた場合、ドップラー・シフトが小さくなればお手上げである。そこでSTAP処理では、空間方向の処理、すなわち受信した反射波の到来方向に関する情報を組み合わせる。
「ドップラー・シフトはいかほどか」という情報と「どちらの方向から到来した反射波か」という情報をバラバラに扱うのではなく、両者を組み合わせた二次元計測データとして処理する。すると、「到来方向とドップラー・シフト」の両方に基づく処理が可能になり、クラッターを、より効果的に抑圧できると説明されている。
ただ、STAP処理を実現するには到来方向を把握できるアレイ・アンテナが必要とされる。そして、E-2シリーズで初めてフェーズド・アレイ・アンテナを採用したのがE-2DのAN/APY-9だったから、それによってSTAP処理が使用可能になった。
微弱な反射波を捉える、特定空域の連続観測
さらに、E-2DのDSSC(Delta System/Software Configuration)ビルド3仕様機で新しい機能が加わった。”dwell-based tracker” という。
普通にレーダー電波を反射する探知目標であれば、反射波を明瞭に受信できるし、スコープにも明瞭に現れる。その探知を繰り返すと探知目標が移動していくから、方向や移動量を調べれば、針路や速力が分かる。
ところがステルス性が高い探知目標は、レーダー電波を特定の方向にしか反射しないように作られている上に、反射を微弱にする工夫もしている。すると、探知できたとしても、それはスコープに不明瞭に、あるいは断続的にしか現れない可能性が高い。それでは、連続的な捕捉追尾は難しい。
さて。“dwell”は「一定時間」という意味だから、“dwell-based tracker”とは、瞬間的ではなく一定時間、連続して追跡を企てるという意味になる。つまり、特定の空域に対して継続的に一定時間、送受信を繰り返して観測を継続する。そこで反射波が複数戻ってきたら、その情報を統合する。
すると、単一パルスの送受信だけでは不明瞭にしか現れない探知目標を、よりしっかり捕捉追尾できる可能性が上がると期待できる。これが“dwell-based tracker”の基本となる考え方。
ただ、一般的な対空捜索レーダーはアンテナをぐるぐる回しながら全周をくまなく捜索するものである。アンテナからビームを送受信できる向きは決まっているから、アンテナを物理的にぐるぐる回すしかない。
しかし、AN/APY-9はAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーで、電波を出す向きを電子的にコントロールできる。もちろん全周監視が基本ではあるが、任意の90度の範囲に限定して高速走査する使い方もある。これを電子セクター走査(Electronic Sector Scanning)といい、それを応用するのが “dwell-based tracker”というわけだ。
ただし、この機能が有用性を発揮して「ステルス・ハンター」を実現するには、ひとつ重要な前提条件がある。一定時間、連続的に観測を行う対象となる「特定の空域」をどこにするかは、オペレーターが指定してやらなければならない。
すると、2種類のやり方が考えられる。ひとつは「敵のステルス機が侵入してきそうな、侵入してきたらヤバいことになりそうな空域に目を光らせる」というアプローチ。もうひとつは、何か別の情報源を用いて「敵のステルス機が侵入してくると分かっているルート」を割り出し、本当にそこにやってくるかどうか、目を光らせるというアプローチ。
おそらく、現実的に実現可能なのは前者である。敵軍の作戦計画立案担当者がまともな脳味噌を持っていれば、そう簡単に “読まれる” ような侵入経路を選ぶことはしない。
過去の戦史を紐解いてみると、同じ侵入経路を繰り返し使用してバレバレになってしまい、大損害を出したり、墜とされると思っていなかった機体が墜とされたりといったことが起きている。となると迎撃側も、そういう僥倖を期待してかかるのは虫が良すぎる。
ステルス機だけではない、ドローン探知への応用の可能性
近年、C-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)が業界における最大の課題に躍り出た感がある。そしてC-UASの対象すなわち無人機は、レーダー反射が小さかったり、速度が一般的な有人航空機やミサイルと比べて遅かったりする。
そうしたターゲットに対して、”dwell-based tracker” とSTAP処理の合わせ技を持つAN/APY-9は、有用性を発揮できる可能性があるといえるかもしれない。

