最近は便利な時代になったもので、新兵器のテストがあった時、その模様を撮影した静止画や動画がたちまち公開される(こともある)。典型例が米ミサイル防衛局(MDA : Missile Defense Agency)で、弾道弾迎撃ミサイルの試射を行う度に、迎撃ミサイル発射の模様や命中の瞬間を撮影した映像を公開している。もっとも、命中の瞬間は赤外線映像だから、素人が見てもよくわからないが。

映像記録のデジタル化

もちろん、こうやって映像を即時公開することの背景には、納税者に対するアピールや説明責任という事情がある。しかし、それを可能にする技術があってこそ、でもある。

陸海空を問わず、新兵器のRDT&E(Research, Development, Test and Evaluation、研究・開発・試験・評価)に際しては、さまざまな映像を記録する。外部にリリースしなくても、内輪での試験などの記録として、あるいは上層部に報告書を上げるような場面で必要になるからだ。

その映像の記録に際して、対象物の挙動がわかりやすいようにする必要があるため、独特の塗装やマーキングを施すことがある。

例えば、ミサイルの実弾は目立たないようにグレーや黒の塗装にするのに、試験弾はカラフルな赤白、あるいは赤橙などのブロックパターン塗装になっている。

ミサイルや爆弾を投下する航空機の側も、マーキングを施して、投下する兵装との位置関係を明瞭に把握できるようにしている。

  • F-35Cの開発試験用機。CF-02という番号が付いた機体で、その名の通りに2機目のF-35C。開発試験に関わる最後のフライトを実施したのが、この機体だった

昔はそれをフィルム式のスチルカメラやムービーで記録していたが、今なら当然、デジタル映像である。いうまでもないことだが、フィルムカメラと比較すると、デジタル映像は「撮ったその場で見られる」という利点がある。つまり記録後の検証や解析を迅速にできる。

そして、前述したような利活用も迅速にできる。報告書はパソコンで書くし、静止画や動画はネットで公開するのだから、使うのはみんなデジタル・データ。それならデジタル式のスチルカメラやムービーを使うほうが理に適っている。

カメラはどこに据え付けるか

第2次世界大戦中に、イギリスで「トールボーイ」という爆弾が開発された。重量が5tもあるデカブツで、高速で地中にめり込んでから大量の炸薬を起爆させる。「地震爆弾」と呼ばれることもあるが、陰謀論に絡んで持ち出される「地震兵器」と混同しないように、御注意。

そのトールボーイの試作品ができた時、実際に投下してテストすることになった。地中にめり込んで爆発するものだから、その動作を記録するには地中にカメラを据え付ける必要がある。

「どこに据えたらいいと思う?」「目標の中心だ。ここに命中しないことは間違いないだろう」

投下を担当する爆撃機の爆撃手にしてみれば、ずいぶん馬鹿にした話である。しかし、当時の爆撃機の投弾精度を考えれば、こういう話になっても無理はない。

ということで、地上に設定した目標中心点の地下にカメラを埋めておいて作動させた。そこにトールボーイを投下したところ、狙った目標地点に正確に着弾してしまった。もちろん、地中に埋めて置いたカメラは木っ端微塵。違う形で威力を実証する結果となった。

では、今のミサイルや爆弾の試射ではどうしているか。大抵の場合、目標の近くにカメラを設置して、外から見た映像を記録させているようだ。

ただし、ミサイルや爆弾が着弾してドッカーン! となる場所の近隣にカメラを操作する要員を置いておいたのでは、危なくて仕方がない。当然、遠隔操作であろう。

航空機の兵装分離試験なら、随伴して飛ぶチェイス機にカメラを設置する。ただし、分離試験に使用する機体が大型の機体の場合、投下を担当する機体の外部にカメラを増設することもあるようだ。

艦載ミサイルの試射なら、甲板の上にカメラを設置して、発射機の方に向けておく。もちろん甲板上は人払いして、無人で作動させておいてミサイルを発射するのであろう。

念を入れるのであれば、撮影したデータがカメラもろとも吹っ飛んでしまうようなことがあっては困るから、データは無線で管制センター辺りに飛ばす手も考えられる。実際にそこまでやっているかどうかはわからないが。

決定的瞬間をとらえる

ここから先は余談。自分も列車や飛行機といった「動きモノ」を撮るものだから、ついつい気になってしまった話がある。

これを書くために、F-35の試験の模様を撮影した写真をつらつらと眺めていたのだが、中には「この瞬間を撮るのは難しそうだなあ」と思えるカットがある。

例えば、F-35Cが空母の艦上で開発試験を実施した時は、当然、着艦した機体の行き脚を止めるために尾部のアレスティング・フックを甲板上のアレスティング・ワイヤに引っかける作業が必要になる。

その、フックをワイヤに引っかけた瞬間の写真があるのだが、なにしろ新幹線に近い速度で飛んでいる機体が相手である。「一発切り」で狙い澄まして撮ったのならすごい腕だ。連写モードで確実を期したとか、動画から切り出したとかいう可能性もあるけれど。

似たような例で、ミサイルや爆弾の投下試験がある。兵装が機体から離れた「発射・投下の瞬間」を捉えた写真である。

空母の着艦なら何回もやるからまだしも、ミサイルの試射になると、まさか「ちゃんと撮れなかったので、もう1回やってください」というわけにも行くまい。撮影者にかかるプレッシャー、いかばかりか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。