日本オラクルは10月6日、AIをテーマにしたイベント「Oracle AI Forum」を開催した。基調講演に登壇した取締役 執行役 社長 三澤智光氏は、企業がAIを「実験」から「実行」へ進めるための3つの問いを提示。個人の生産性を高める「支援系AI」から、AIが業務を進める「基幹系AI」への移行や、AI時代のデータプラットフォームのあり方について説明した。

  • 日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

    日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

企業AIを「実験」から「実行」へ、3つの問い

企業におけるAI活用が広がる一方、個人の生産性向上を企業全体の業績や経営成果にどうつなげるかが課題となっている。

三澤氏は、企業がAIを試験的に導入する「実験」の段階から、実際の業務に組み込み、企業として成果を生み出す「実行」の段階へ進むためには、AIそのものだけでなく、業務やデータのあり方まで含めて考える必要があるとの考えを示した。

そのうえで、企業がAI活用を「実験」から「実行」へ進めるために考えるべきテーマとして、3つの問いを挙げた。

  • AIを使って何を目指すのか
  • AIのためにデータプラットフォームを作るのか AIを使ってデータプラットフォームを作るのか
  • AI・データ・ソブリンというキーワードにどう相対するか
  • 企業がAI活用を「実験」から「実行」へ進めるための3つの問い

    企業がAI活用を「実験」から「実行」へ進めるための3つの問い

個人を効率化する「支援系AI」から、業務を変える「基幹系AI」へ

では、企業はAIを使って何を目指すべきなのか。三澤氏は1つ目の問いについて、企業におけるAI活用を「支援系AI」と「基幹系AI」に分けて説明した。

「支援系AI」は、従業員一人ひとりの業務速度や効率を高めるAIだ。例えば、顧客から問い合わせを受けた際に、AIを使って回答文を作成するといった使い方がこれにあたる。

三澤氏は、こうしたAIによって個々の作業時間を短縮できる一方、業務そのものが変わるわけではないと指摘。経営者の視点では、その効果を財務的な数字として示しにくいという。

これに対して「基幹系AI」は、AIが業務そのものを進めることで、組織全体の処理能力を高めることを目指す。

三澤氏は顧客から返金依頼を受けたケースを例に挙げた。支援系AIでは、担当者がAIを使って顧客への返信文を作成する。一方、基幹系AIでは、AIが顧客情報や注文履歴を取得し、契約内容や社内ポリシーと照合したうえで、返金処理まで実行する。

つまり、人が行ってきた一連の業務プロセスにAIが組み込まれ、業務そのものを進める点が支援系AIとの大きな違いとなる。三澤氏は、こうしたAI活用であれば組織全体の処理能力を高められ、コストや売上に直接つながり、財務的な数字としても表れると説明した。

  • 「支援系AI」と「基幹系AI」の違い

    「支援系AI」と「基幹系AI」の違い

三澤氏は、こうした「キャパシティを増やすAI」の導入を「社員を雇うことに等しい」と表現した。ただし、AIに実際の業務を任せるには、モデルの性能だけでは不十分だという。

三澤氏は「正しいデータとビジネスコンテキスト」と「行動規範」が同時に必要になると指摘した。前者には、リアルタイムの業務データだけでなく、データの意味や関係性、業務プロセス、社内ルールなどが含まれる。一方、後者では、AIエージェントにどのような権限を与えるのか、どこまで行動を許可するのか、実行した操作を追跡できるようにするといった仕組みが求められる。

  • AIが業務を遂行する上で必要となる「正しいデータとビジネスコンテキスト」と「行動規範」

    AIが業務を遂行する上で必要となる「正しいデータとビジネスコンテキスト」と「行動規範」

こうした条件のうち、三澤氏が2つ目の問いとして取り上げたのが、AIが業務を実行するためのデータプラットフォームのあり方だ。

AIのためにデータ基盤を作るのか、AIを使って作るのか

では、AIが業務を実行するために必要なデータやビジネスコンテキストを、企業はどのように整備すればいいのか。ここで三澤氏が示した2つ目の問いが、「AIのためにデータプラットフォームを作るのか、AIを使ってデータプラットフォームを作るのか」だ。

三澤氏は、AIデータプラットフォームを構築する企業が直面する課題として、全社のデータ統合を待っていてはAI活用の効果を出すまでに時間がかかることを挙げた。社内のデータをすべて移動・コピーし、全社共通のオントロジーを構築しようとすれば、時間とコストがかかる。

  • AIデータプラットフォーム構築における課題

    AIデータプラットフォーム構築における課題

そこで三澤氏が示したのが、最初から巨大なデータプラットフォームを完成させるのではなく、ビジネス上の問いから始め、必要なデータを使いながら段階的に対象を広げていくアプローチだ。

必要なデータに直接アクセスし、大規模なデータ移動や全社共通のオントロジーの完成を待たずにAI活用を始める。そこから他のシステムとの連携を広げることで、データプラットフォームを段階的に拡張していく。

さらに、AIによる判断や業務実行の結果、人による承認結果などをフィードバックすることで、オントロジーやAIエージェントを継続的に改善する。AIを使うためにデータプラットフォームの完成を待つのではなく、AIを活用しながらデータプラットフォームそのものも育てていく考え方だ。

  • AIデータプラットフォーム構築に対するOracleのアプローチ

    AIデータプラットフォーム構築に対するOracleのアプローチ

AI時代に高まる「ソブリン」の重要性

そして、三澤氏が3つ目の問いとして挙げたのが、「AI・データ・ソブリンというキーワードにどう相対するか」だ。

AIが個人の業務を支援するだけでなく、企業のデータにアクセスして判断し、業務そのものを実行するようになれば、AIやデータを誰が、どのようなルールのもとで管理するのかも重要になる。

三澤氏は、機密データやシステムへのアクセスを自らコントロールすることに加え、各国の規制や国外の法規制なども考慮する必要があると説明。企業が安心してAIを利用するためには、データだけでなくAIそのものについても主権を確保する「ソブリンAI」の考え方が重要になるとの認識を示した。