コウチュウ目ゲンゴロウ科は水中生活に特化した形態を有する昆虫で、水棲甲虫の中では最も種数が多く、日本だけでも約140種が記録されている。

石川県ふれあい昆虫館と大阪公立大学の両者は、日本産の同科セスジゲンゴロウ属(Copelatus)に属する「チンメルマンセスジゲンゴロウ」の形態および遺伝子を詳細に検討。その結果、沖縄県の大東諸島に属する南大東島と、同県の宮古列島に属する宮古島から採集された個体群は、どちらも亜種相当の差異があると判断し、新亜種として記載・命名したことを9月29日に共同発表した。

あわせて、中国産の標本も含めた形態観察による検討結果から、チンメルマンセスジゲンゴロウはセスジゲンゴロウ属ではなく、「Austrelatus属」(この属の和名は未定)の特徴を有することが判明したため、セスジゲンゴロウ属からAustrelatus属へと分類を変更(属の移動)したことも発表している。

  • (A)基亜種チンメルマンセスジゲンゴロウ。(B)南大東島産の新亜種ダイトウセスジゲンゴロウ (C)宮古島産の新亜種スジナシセスジゲンゴロウ (出所:大阪公大Webサイト)

    (A)基亜種チンメルマンセスジゲンゴロウ。(B)南大東島産の新亜種ダイトウセスジゲンゴロウ (C)宮古島産の新亜種スジナシセスジゲンゴロウ (出所:大阪公大Webサイト)

同成果は、石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、大阪公大大学院 農学研究科の加藤雅也大学院生、同・上田昇平准教授、オーストリア・ウィーン自然史博物館のHelena Shaverdo博士の国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州の自然史研究機関が共同で刊行する、動物・植物・菌類・古生物の分類学を扱うオープンアクセスジャーナル「European Journal of Taxonomy」に掲載された。

今回の研究成果

これまでチンメルマンセスジゲンゴロウはセスジゲンゴロウ属に分類され、上翅に多くの条溝を持つことに加え、頑丈で太く特徴的な交尾器などを特徴としていた。しかし、日本産のチンメルマンセスジゲンゴロウの形態を改めて詳細に観察した結果、南大東島産と宮古島産の個体群にはそれぞれ顕著な独自性が見られたという。

まず南大東島産の個体群は、体色が黒褐色であることや、上翅基部に見られる黄赤色の帯状模様が細いことなどの形態的特徴により区別された。一方、宮古島産の個体群は小型で体形が細長いこと、上翅基部の黄赤色の帯状模様が太いこと、さらに上翅の条溝自体を欠くことなどから、こちらも明確に区別できることが確認された。

またDNA解析の結果からも、南大東島産の個体群は他の個体群から大きく分化していることが判明。宮古島産の個体群も、分化の程度は小さいものの、他の個体群と区別できることが明らかにされた。さらに、宮古島産の個体群を繁殖させ、26度で飼育した際の幼虫期間を長崎県産の個体群と比較したところ、宮古島産の個体群は幼虫期間が長いことも確かめられた。

このように形態的特徴や幼虫期間の比較などから個体群間の差が認められたものの、雄の交尾器形態およびDNA解析では別種とするほどの決定的な差ではないとされた。しかし、南大東島と宮古島は他の生息地から大きく隔離されており、それぞれの島独自の特徴を有する個体群であることから、これら2つの個体群は新亜種として記載することにしたという。

南大東島産の亜種は「Austrelatus zimmermanni daitoensis Watanabe, Kato & Shaverdo, 2026」の学名で記載され、標準和名として「ダイトウセスジゲンゴロウ」が提唱された。一方、宮古島産の亜種は「Austrelatus zimmermanni miyakoensis Watanabe, Kato & Shaverdo, 2026」の学名で記載され、標準和名として「スジナシセスジゲンゴロウ」が提唱された。

  • 一塩基多型(SNPs)データに基づくネイバーネット法による系統ネットワーク (出所:大阪公大Webサイト)

    一塩基多型(SNPs)データに基づくネイバーネット法による系統ネットワーク (出所:大阪公大Webサイト)

さらに、チンメルマンセスジゲンゴロウの形態を詳細に検討した結果、雄交尾器中央片が複雑な構造をなし、腹面側が2つの頂端裂片に分かれているなど、Austrelatus属の特徴を有することが判明した。加えて、ミトコンドリアDNAおよび核DNAに基づく系統解析結果も同属への所属を示唆したことから、チンメルマンセスジゲンゴロウはAustrelatus属へ正式に分類変更となった。

今回の研究により、日本産チンメルマンセスジゲンゴロウは属の所属が見直されるのと同時に、南大東島産と宮古島産の個体群がそれぞれ新亜種として位置付けられることになったかたちだ。

  • ミトコンドリアDNAおよび核DNAに基づく最尤系統樹 (出所:大阪公大Webサイト)

    ミトコンドリアDNAおよび核DNAに基づく最尤系統樹 (出所:大阪公大Webサイト)