パワードスーツ挿絵

ここ数年ナイーヴになりすぎて、映画と言ったら、八甲田山とキンプリとHiGH&LOW以外は洋画のアクションものぐらいしか見られなくなった。

つまり充実の映画ライフなのだが、アクション物の中ではアメコミヒーローものを好んで見ている。そして、ヒーローは二種類に大別できると気づいた。割とヒロインとイチャイチャしていたりする奴と、ずっと深刻な顔をして何かと戦っている奴だ。

前者の方が得をしているように見えるが、サムライミ版スパイダーマンのメリージェーンが「ヒロインがいればいいってもんじゃない」と全世界に証明してしまったので、何が幸せかなんてひとつのものさしで測ることなど到底無理、ということだ。

そしてもうひとつ、ヒーローを二分する要素がある。自分自身が超能力をもっているタイプと、普通の人間だがパワースーツなど特殊な装置で超人的力を持っているタイプがいる。

後者で有名なのはアイアンマンだろうか。大金持ちでプレイボーイというアメコミ界きってのリア充だが、話の都合上、本命とはイマイチ上手くいってない感じにされたり、仲間と深刻すぎる仲間割れをしたりと気苦労が耐えない。好きだ。

彼自身は、手から粘着物質が出るとか、皮膚が目に優しい色をしているとか、人間の枠を超えた能力を持っているわけではないが、特製のスーツを身につけることにより、特殊能力を持った「ガチ勢」の方々とも互角に渡り合っているのだ。

この人間の力を増幅させるパワードスーツ、SFの世界の中だけかと思いきや、現実でも開発が進んでいるという。

パワードスーツが対峙する現実的な敵

パワードスーツ:人体に装着される電動アクチュエーターや人工筋肉などの動力を用いた、外骨格型、あるいは衣服型の装置である。(引用:「パワードスーツ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2018年2月12日 (月) 18:00)

つまり、このスーツを装着すれば、重い物が軽々と持てたり、自室と冷蔵庫の間を行き来するだけで息が切れていた人間が、汗ひとつかかず、よりスピーディに自室と冷蔵庫の間を行き来したりできるというわけだ。

しかし、その使用目的は、残念ながらガチ勢との戦闘用ではない。

人間社会すべてにおいて機械化が進んでいるとはいえ、まだ人力に拠るところも多く、仕事によっては主に「人間の体力と筋力」という、原始時代みたいなものに頼っている現場も珍しくない。

そういった仕事には力のない者はまず就けないし、力のいる仕事を長く続けていると体を壊す恐れもある。パワードスーツには、そんな介護や医療のように人の力が必要な職場で、人の負担を減らすことが期待されているという。

ガチ勢とのバトルに比べたら地味極まりない用途だが、ミュータントや宇宙人の襲来のよりも、介護・医療現場の人材不足の方が確実にやってくるクライシスである。つまり、SFのパワードスーツが相手にしているのは未知なる敵だが、現実の相手は少子高齢化である。

我々世代はすでに100歳ぐらいまで普通に生きると言われているが、年金は減る一方なので、ギリまで働くことを国ぐるみで推奨されている。しかし、何せジジイとババアだ。出来る仕事は限られているし、雇う方も若い方がいいに決まっている。

しかし、このパワードスーツを装着することにより、ジジイとババアでも若者と同じ力仕事ができるとしたら、現場は労働力不足解消、そしてジジイとババアは糊口を凌ぐ手段を手に入れることが出来る。

90過ぎのジジイとババアが、アイアンマンみたいな装置をつけて重労働をしている姿が「良い国」なのかというと、一回ガチ勢に滅ぼしてもらった方が良くないか、とも思えるが、そうガチ勢も都合よく襲って来てくれないので、大人しく働くしかない。

しかし、このスーツは仕事面以外でも使えると思う。「老後の楽しみ」と言うが、いざ老後になると、体の衰えで趣味が楽しめないことがある。だがこのスーツがあれば、それは解消できるのではないか。

数十年後、アイアンマンコスか?という見た目のパワードスーツを纏い、両手にDB(ドスケベブック)をトン単位で抱え、ビックサイト内を悠々と闊歩する老婆の姿が見られるかもしれない。

<作者プロフィール>

著者自画像

カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年2月20日(火)掲載予定です。