電気自動車の本格的商用車を目指す米国のベンチャー「Tesla Motors」が満を持して発表したモデルS(図1)は、本格的な5人乗りセダンで480kmの航続距離を実現した電気自動車(EV)。バッテリをひたすら多数搭載して居住空間を犠牲にしたわけではない。ボディを最初から電気自動車用に設計し直して最適な商品開発を行ってきた結果である。しかも、価格は5万ドル程度(約400万円)と手ごろな価格を実現する。

図1 Teslaの5人乗りセダンのモデルS(出典:TeslaのWebサイト)

共通の基本プラットフォーム

Teslaがこのほど公開したのはクルマのシャーシ部分(図2)。シャーシにはすべてアルミニウムを使い軽量化を果たしながら、これを基本プラットフォームとする設計思想を持ちこんだ。この考えは、電気自動車のシャーシをできるだけ共通化し、それをベースにボディで車種の展開を図るというもので、モデルSは5人乗りだが、同じシャーシで7人乗りのミニバンのようなクルマも作れると同社バッテリ技術部門ディレクターのKurt Kelty氏は語る。

図2 モデルSのシャーシ部分

シャーシの床全面に円形18650型標準リチウムイオンセルを敷き詰め、バッテリとする。もちろん、これらのセルを数10~数100個直並列接続したバッテリパックを並べていく。バッテリパック1個あたりの電圧は不明だが、バッテリ全体としては一般には直並列にして330~350V程度になるように昇圧する。今回、使用した18650タイプのセルは最初の2人乗り電気自動車「ロードスター」のセルと比べ3割程度電池容量が増えたという。18650タイプのセルを使い続ける理由は、セル1個当たりのエネルギーが小さいからだとする。万が一の事故が起きたとしても影響をできるだけ抑えることができる。

3種類の電池容量を用意

このシャーシに搭載できるバッテリ容量は3種類用意された。85kWhと60kWh、40kWhである。では、シャーシに搭載する電池セルの数をどのように分けてそれぞれの容量に対応するのだろうか。Kurt Kelty氏(図3)は、「考え方は2つある。1つは、同じ容量のセルの数を減らしてシャーシに搭載する。もう1つは容量の異なるセルを同じ本数搭載する」と述べるにとどまり、どちらの方法を使ったのかについては答えなかった。

図3 Tesla バッテリ技術部門ディレクターのKurt Kelty氏

バッテリを搭載したシャーシの重量や前後左右の重量バランスが異なると、クルマの設計は一からやり直さなければならない。電池容量ごとにシャーシを設計するのであれば、低コストで作ることはできない。できるだけ同じ重量で、かつ同じ重量バランスが必要となろう。バッテリ容量ごとにセルも変えるとなると、これまた低コストでは作れない。このように考えると、同じセルを使いその本数を変えるとともに重量バランスが崩れないようにするためダミーセルを搭載し、同じ重量を確保すると考えることが自然だろう。

バッテリ容量はちなみに、日産のリーフが24kWh、Teslaの最初のロードスターは53kWhであった。リーフの航続距離は200kmと言われている。今回の85kWhのバッテリ容量で航続距離が480kmであるため、もっと低い容量だと航続距離は短くなる。65kWhのバッテリでは230マイル(370km)、40kWhでは160マイル(250km)である。ただし、この走行距離は単純にリーフと比べる訳にはいかない。それぞれの走行条件が違うためだ。例えばエアコンのスイッチを使うか使わないか、夜間の照明を使うかどうか、など条件は一様ではない。

実はバッテリを3種類も用意したのは、前のクルマ「ロードスター」から学んだためだという。スポーツカーのロードスターでは非常に乱暴な運転をするドライバが乗ることもあり、さまざまなニーズがあることを学んだ。ロードスターの走行距離は、3680万kmにも及ぶとする。

積荷スペースはBMW5シリーズの2倍

バッテリのセルはシャーシ面に対して垂直に並べられるため、より多くのセルを搭載する形になる。しかもバッテリは重いため、重心が低くなり安定走行ができる。高速道路を走行する場合にはエアポンプによるサスペンションを動かし、車体をさらに下げることで安定に、しかも空気抵抗を減らせるためバッテリの走行距離を伸ばすことができる。

フラットな構造のバッテリパックを収容するシャーシであるため、居住スペースが広く、クルマの前方にも積荷スペースを追加できる。モデルSの積荷スペースはBMW 5シリーズの2倍あるという。クルマの前方には、サスペンション制御用のエアポンプ、ブレーキポンプ、コンプレッサのためのバッテリとモータを別に設けている。それでもこれらの体積は小さく十分な積荷スペースをとれる(図4)。

図4 前方スペースも広い

エンジンに相当するモータとインバータは後輪近くに設置され(図5)、後輪駆動となる。モータとインバータは液冷を利用する。それも冷媒を前方からポンプを使って後方のモータとインバータに送り、冷媒を循環させる方式を使う。

図5 モータとインバータは後輪近くに配置

セルバランスは独自設計

電気自動車では、セルバランスも重要である。これは初期的に特性の揃ったセルを並べても、実際に充放電を繰り返すとセル間のバラつきの影響が出てくる。充電する場合、1つのセルが充電されても別のセルはまだ充電されない、という状態が起きる。このためセルの電荷(電流)を検出して、セル間でのバラつきを減らすことが重要になる。このことについてKelty氏は、中国製のバッテリだとセルバランスは大きな問題であるが、パナソニックなどのメーカーのセルはまったく問題ないと述べる。1000サイクル充放電を繰り返しても変わらないという。5月に中国BYDの電気自動車が事故を起こし炎上した。このこともあり、1~6月のEVの販売はわずか300台しか売れていない。モデルSでは、セルバランスは独自に設計し、しかもセル間バラつきの少ない電池を使っており、Kelty氏は自信を見せる。

今回のモデルSにはトヨタ自動車の技術は入っていないという。Kelty氏はトヨタからは、パワートレインの設計思想や信頼性の考え方などを学んだとしている。

モデルSは2012年6月に米国で発表された後、これまでにすでに100台納車し、年末までに5000台納車する予定だという。すでに1万2000台以上の予約があり、来年は生産数量を増強し、2万台を納車する予定だとしている。2013年には、日本でも販売する計画で、最初のロードスターの半額(約600万円)で販売する予定だ。しかも日本仕様では、急速充電器規格「CHAdeMO」にも対応するという。ちなみにコネクタが安くて軽い米国独自の急速充電では、30分で満充電の50%まで充電でき、160マイル走ることが可能だとしている。満充電の50%としているのは、バッテリをダメージから守るためである。

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