今回は、BAEシステムズが2026年6月にプレスリリースを出した、二重反転ローターを持つ無人ヘリコプターを取り上げてみる。「キャップストーン」は、300kgの貨物を搭載し、約480kmの飛行が可能だという。
無人ヘリコプターというと、シーベル・エアクラフトのカムコプターS-100やS-300、エアバスのVSR700、ノースロップ・グラマンのMQ-8B、UMSスケルダーのV-200などが知られている。ところが、これらはみんなテイルローターを持つコンベンショナルな構成で、二重反転ローターを持つ機体は意外と見かけない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
BAEシステムズが開発する無人ヘリ「キャップストーン」
第509回で、マロイ・エアロノーティクス製のT-150というクワッドコプターと、そこにレーザー誘導ロケット弾AGR-20A APKWS(Advanced Precision Kill Weapon System)を搭載した武装型・TRV-150を取り上げた。この機体はマロイ・エアロノーティクス単独ではなく、BAEシステムズが組んで開発や試験を実施している。
ところがそのBAEシステムズは別件で、サート・エアロスペース(Certo Aerospace)と組んで、二重反転ローターを持つ回転翼無人機・キャップストーン(Capstone)を開発している。そのための資金は、英海軍、英国防省の医療部門JHubMed(UK Defence Medical Services)、そして米国防総省が出している。
野次馬的観点からすると一種の二股に見える。しかし、そこで「T-150というものがありながら、別の会社ともお付き合いしてキャップストーンを開発するなんて!」といきり立つのは早計である。
貨物68kgと300kg、2つの無人輸送機は何が違う?
T-150は現物を見たことがあるが、一般的な電動式マルチコプターのイメージからするとだいぶ大きい。全長2.65m、全幅2.05m、全高0.71mである。
そして、斜め前方左右と斜め後方左右の合計4方向に延ばしたブームの先端・上下にそれぞれ電動式のローターを取り付けており、全部で8ローター。これでペイロードは150lb(68kg)、最大速力は30m/s(108km/h)、満載時の航続距離は13~37.7km(空荷なら70km)、航続時間は36~40分。
こうしてみると、遠距離・大重量の輸送は想定していないだろうし、そもそも行えない。小口の貨物を近距離で安価に輸送する手段、という位置付けとなろう。そもそも蓄電池で駆動する電動機が動力源だから、エネルギー密度や航続性能の面では明らかに分が悪い。
対してキャップストーンはというと、ペイロードは300kg(さらに増やす構想もある)、航続距離は300マイル(482km)、航続時間は10時間、乾燥重量は600kg。動力源はRotax製の4サイクルガソリン・エンジン。
プレスリリースに載っている写真や画を見るだけではピンとこないが、こうしてみると機体の規模も航続性能もまるで違う。これを同じ土俵で比較するのは不公平というものだ。
なぜローターを上下に重ねる? 二重反転方式の利点と弱点
構造がシンプルで安価に作りやすいのは、T-150みたいな電動式マルチコプターの利点である。しかしそれは小型の機体の場合。電動式マルチコプターを大型化しようとすると、デメリットの方が大きくなってくる。
推進用のプロペラにも似たところがあるが、羽根を回して空気流を生み出す場合、大径化してゆっくり回す方が効率が良い。ところがマルチコプターは構造上、ローター径を大きくするといっても限りがある。大きくし過ぎるとローター同士がぶつかってしまう。
だから、決して電動式マルチコプターは効率の良い浮上・推進機構を持っているとはいえない。しかし一方で、複雑なトランスミッションやピッチ制御のメカが不要で、構造が簡素になるメリットがある。
小型機であれば、小型軽量にまとめられる利点が、ローターの効率の悪さを相殺してくれる。しかし機体が大きく重くなると、今度はローターの効率の悪さがデメリットとして前面に出てくる。
対して二重反転ローターを持つヘリコプターは、ローター・ヘッドまわりの構造が一般的なヘリコプター以上に複雑になる。一方で、互いに逆方向に回転するローターを重ねるから反トルクの影響を打ち消すことができ、別途、テイルローターを設ける必要がない利点もある。そのため、エンジンの駆動力を浮上と推進のために全振りできるという見方もある。
しかもマルチコプターと違い、上下に重ねているふたつのローターの径を増やしても、ぶつかり合うようなことはない。実際、キャップストーンのローター径は5mもある。
T-150もキャップストーンも「垂直離着陸が可能な無人貨物輸送機」という点では同じカテゴリーだが、機体の規模も搭載能力も航続性能も大きく異なる。だからこそ、同じBAEシステムズが両方を手掛ける意味が出てくる。それぞれ居場所が違うのである。
負傷者の搬送も視野に? 英国防省の医療部門が開発を支援
繰り返しになってしまうが、キャップストーンの開発と試験には英国防省の医療部門が資金を出している。何かメリットがあると考えたからこそ、資金を出しているはずである。
T-150は近距離の輸送しかできないし、ペイロードが68kgしかないから、医薬品や医療関連機材の空輸ぐらいが限界だろう。しかしペイロードが300kgあるキャップストーンなら、もっと大きく、重いものも輸送できる。すると、負傷者の後送に使用するところまで視野に入れているかも知れない。
ヘリコプターを負傷者の後送に使用するのは、何も今に始まった話ではない。米軍では朝鮮戦争の頃からやっている。だから、それを無人ヘリに委ねる考えが出てきても不思議はないのだが、問題は「無人ヘリに人命を預けても大丈夫」というところまで信頼性を高められるかどうかだろう。
なお、T-150もキャップストーンも、パイプを曲げてこしらえた降着装置(?)を胴体の下面に取り付けて、地上とのクリアランスを大きくとる設計になっている。貨物を搭載するなら胴体下面に取り付ける、あるいはぶら下げるしかないので、ここのクリアランスをどれだけ確保できるかも、搭載能力に影響する。

